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銀のインクでタッチセンサーを紙に印刷

2015.2.16

銀ナノ粒子インクで印刷されたタッチセンサー。繰り返し折り曲げたり、巻いてもきちんと動作する。by American Chemical Society

「ペーパーエレクトロニクス」と呼ばれる分野が盛り上がりを見せている。
現在のエレクトロニクス製品はフォトリソグラフィー(感光性の物質を塗布した物質の表面を指定したパターンで露光させる技術)で電子回路を作っているが、この方法では低コスト化に限界があり、大面積化も難しい。そこで、基板に直接半導体などを印刷する「プリンテッドエレクトロニクス」の研究開発が盛んになってきた。ペーパーエレクトロニクスは、安価な紙への印刷に特化したプリンテッドエレクトロニクスの一分野である。
プリンテッドエレクトロニクスにおいて電子回路を印刷するには導電性のインクが使われるが、紙はプラスチックなどに比べて表面が粗くインクがにじみやすい。こうした課題を解決するため、2013年9月に東京大学川原圭博准教授らが発表したのは銀ナノ粒子を用いた導電性インクだ。インクに使われる銀ナノ粒子はサイズや形状が工夫されており、印刷後すぐに乾いて通電する。ベンチャー企業のAgICは、この銀ナノ粒子インクを使ったマーカーや、市販インクジェットプリンタ用のインクカートリッジをすでに製品化して2014年から販売している。
AgICのインクで紙に描いた回路パターンには接着剤やフィルムで電子部品を実装していくが、2014年11月、テネシー大学のAnming Hu博士らは銀ナノ粒子インクだけで紙の上にタッチセンサーを作ることに成功した
Anming Hu博士らの研究チームは、コンピューター制御で回路パターンを描くプロッター(出力機)とインクを開発。これによって作られたタッチセンサーは厚さ0.1mm、重量60mg以下と極めて薄型軽量で、1本指でのタッチと2本指のタッチを区別することが可能。15回折り曲げたり、5,000回巻いたり伸ばしたりを繰り返してもきちんとセンサーとして機能したという。この技術は、タッチセンサー以外のセンサーにも応用できる。研究チームでは、特定のグルコース(ブドウ糖)に反応する回路を印刷によって作り出すことで、安価なバイオセンサーも実現しようとしている。

(文/山路達也)

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