Science News

肺ガンやアルツハイマーの患者を
スマートフォンが救う?

2015.3.2

スマートフォン充電中に起動しておくことで、難病治療法の研究を手助けできる「Folding@Home」アプリ。

ガンやアルツハイマーを始めとして、まだ治療法が見つかっていない難病は数多い。こうした難病を治療するカギとなるのが、タンパク質である。
生物の細胞内では、遺伝子配列に従ってアミノ酸が結合され、タンパク質が合成されていく。合成されたタンパク質は固有の立体構造(フォールディング)へと折りたたまれていくのだが、どういう立体構造を取るかによってタンパク質の機能が決まる。タンパク質の構造がわかれば、病気に効果的な薬もわかるが、複雑な立体構造をコンピューターでシミュレートするには、膨大な計算量が必要になる。タンパク質によっては、高価なスーパーコンピューターを用いても何ヶ月もの時間がかかることすらあるのだ。
こうした課題を解決するために、スタンフォード大学Vijay Pande教授が2000年に開始したプロジェクトがFolding@Homeである。Folding@Homeのボランティアは、インターネットに接続できるパソコンなどの端末に専用アプリをインストールしておく。パソコンを利用していない時、研究に必要な計算がパソコン内で自動的に行われ、計算結果がスタンフォード大学に送られるという仕組みだ。
2007年、Folding@Homeプロジェクトはソニーと協力して、PlayStation3にも対応。現在は約15万のユーザーがプロジェクトに参加している。
2015年1月には、Folding@Homeでスマートフォンも使えるようになることが発表された。現在のスマートフォンは数年前のパソコン以上の性能を備えているものもあるので、これは当然の流れだろう。充電中などスマートフォンが使われていない時に、Folding@Homeアプリが計算処理を行うようになっている。
Vijay Pande教授がスマートフォン上で計算する対象に選んだのは、キナーゼという酵素。患者ごとのキナーゼの立体構造の違いによって、肺ガン治療薬の効き目が異なると考えられており、それをFolding@Homeによって明らかにしていく計画だ。
実際のキナーゼが折りたたまれるにはわずか30万ナノ秒(0.0003秒)しか掛からないが、1ナノ秒分のシミュレートを1台のスマートフォンで行うには丸1日掛かる。それでも、1万台のスマートフォンが1日当たり8時間計算を行えば、3か月で計算は完了する。
研究チームは、キナーゼの次には、アルツハイマーに関連するタンパク質の解析に取り組む計画だという。
なお、2015年2月時点では、スマートフォン用アプリはソニーXperiaの一部機種にのみ対応している。2015年の後半には、Android4.4以上を搭載したすべてのスマートフォンに対応する予定である。

(文/山路達也)

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