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人間以上の感度を備えた、機械の「鼻」

2015.3.31

スペアミントとキャラウェイの匂い成分はどちらもカルボンだが、これらを区別できる嗅覚センサーが実現できた。

人間の備えている五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)は、着々と機械化が進んでいる。監視カメラの映像から特定の人物を抽出したり、音声認識機能でスマートフォンを操作したりすることは日常的になっているし、卵と野球のボールで力加減を変えられる繊細な触覚を持ったロボットアームも登場している。味覚についても、味を数値化して表現できる味覚センサーを九州大学が開発し、すでに製品化がなされている状況だ。
五感の中で機械化が最も遅れていた嗅覚についても、最近の研究で少しずつ仕組みがわかってきた。匂いの元となるのは、空気中に存在する揮発性の有機化合物。鼻の中には、粘液に覆われた嗅細胞があり、その繊毛には様々な種類の匂い受容体というタンパク質が含まれている。空気中の有機化合物が、対応する匂い受容体と結合すると、その刺激が脳に伝わって嗅覚が生じるのだ。
2015年1月、英マンチェスター大学のKrishna Persaud教授らの研究チームは、人間よりも鋭敏な嗅覚を実現するセンサーを開発したと発表した。研究チームは、匂い受容体タンパク質を効率的に生産する手法を開発し、それらタンパク質をトランジスタと接合。匂いの元となる有機化合物がタンパク質と結びつく際の、電流の変化パターンを計測することで、匂いを識別する。
この嗅覚センサーが従来に比べて優れているのは、鏡像異性体を区別できること。分子構造が鏡に映したような鏡像になっているものを鏡像異性体といい、その化学的な性質は異なることが多い。例えば、スペアミントとキャラウェイの香りはまったく異なるが、匂い成分はどちらもカルボンという物質で、鏡像異性体の関係になっている。マンチェスター大学の嗅覚センサーでは、スペアミントとキャラウェイの匂いも区別することができるのだ。
研究チームでは、この嗅覚センサーを食品の腐敗や大気汚染の検出などに応用することを検討している。

(文/山路達也)

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