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ヤモリのように、壁に吸い付くグリッパー

2015.8.10

(左):ペンシルベニア大学が開発した「人工ヤモリグリッパー」。ガラスの表面にピタリと貼り付き、剥がすのも容易だ。
(右):ヤモリの足には、吸盤がないにかかわらず、マイクロメートルサイズの膨大な数の毛が強力な粘着力を生んでいる。

自然界には、人間が学ぶべき仕組みがまだまだたくさんある。ヤモリの足はその1つだろう。
ヤモリの足には吸盤がないにもかかわらず、壁に引っ付き、自在に歩き回ることができる。2000年、ヤモリの足の裏の構造が解明され、「ファンデルワールス力(原子、イオン、分子間(場合によっては、同一分子の中の異なる原子団の間)に働く引力または反発力の一つ)」の作用であることが突き止められた。ヤモリの足裏にはマイクロメートルサイズの剛毛が生えており、それぞれの剛毛はナノメートルサイズの毛の集合になっている。壁の表面の凹凸にナノメートルサイズの細い毛がかみ合うと、ファンデルワールス力という力が働く。通常ファンデルワールス力は意識されないほど弱い力だが、ヤモリの場合はわずかな面積に膨大な数の毛が生えており、それらのファンデルワールス力が合わさることで、強力な粘着力を生んでいる。
ヤモリの吸着能力の優れている点としては、粘着力を自在に調整できることが挙げられる。足の角度を変えるだけで、壁から足を簡単に離せるのだ。これを応用できれば、半導体のように繊細なモノを操作するマニピュレーター(ロボットアームなど)や、ビルの表面などを上るロボットが作れると期待されている。
これまでにもヤモリの足を人工的に再現しようという試みはさまざまな研究機関が進めているが、実用化されたものはまだない。ヤモリの足裏の微細構造をそのまま再現しようとすると、製造コストが高くなってしまうからだ。ペンシルベニア大学のKevin Turner准教授とHelen Minsky博士は、自然のヤモリとはまったく異なる構造で、同様の効果が得られるグリッパーを開発した。プロトタイプのグリッパーは1つあたりの直径が数ミリメートル程度の円柱で、硬いプラスティックのコアを柔らかなシリコンラバーが包む単純な構造になっている。このグリッパーはガラスなどにぴったりくっつき、角度を変えれば簡単にはがせる。
コンピュータシミュレーションの結果、このグリッパーの構造を顕微鏡サイズに縮小しても同様の効果が得られることがわかったという。微細なサイズのグリッパーをまとめれば、さらに強力な粘着力を持たせられる。製造コストも低く抑えられる見込みであるため、ヤモリロボットの登場は意外に早いかもしれない。

(文/山路達也)

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