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ナノ構造で色を表現、
インクを使わないカラー印刷

2015.8.31

カラー印刷されたミズーリ工科大学のロゴ。ナノメートルサイズなので、見るには電子顕微鏡が必要だ。

今は安価な家庭用のインクジェットプリンターでもフルカラーの美しい写真を印刷できるようになった。インクジェットプリンターでは、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)という4色のインクカートリッジからインクを打ち出して色を表現する。商業印刷では複数の版を重ねて色を表現するが、インクを使う点は同じだ。
ミズーリ工科大学の研究チームが開発したのは、インクを使わずにカラー印刷を可能にする技術。この技術のポイントは、「メタマテリアル」にある。メタマテリアルとは、電磁波に対して、自然界にはない振る舞いをする人工物質の総称だ。
研究チームは、銀でできた2枚のフィルムで、シリカ(二酸化ケイ素)のフィルムを挟んだ構造を作成した。上層の銀フィルムは25ナノメートル、下層の銀フィルムは100ナノメートル、シリカフィルムは45ナノメートルの厚みがある。

デモンストレーションのため、研究チームはミズーリ工科大学の小さなロゴを作成し、このロゴを元に上層のフィルムに微細な穴を開けた。フィルムの上から光を照射すると、上層フィルムの穴を通った光が下層のフィルムと反応し、フィルムの反射率を変化させて色を作る。開ける穴のサイズを調整することで、特定の周波数の光だけを下層のフィルムに照射可能で、実験ではロゴを4色で表現している。
今回発表されたカラー印刷技術が既存の印刷を置き換えるわけではないが、今までになかった新しいアプリケーションを生み出すことになりそうだ。有望なアプリケーションとして研究チームが挙げている例の1つは、セキュリティ用のマーキング。現在の紙幣に使われているよりも、はるかに精密な偽造防止の仕組みを作れるだろう。また、大容量の記憶媒体への応用も検討されている。

(文/山路達也)

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