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水滴で動作するコンピュータ

2015.9.14

鉄で描かれた回路の上を動き回る水滴。この水滴によってビットを表現し、演算処理を行う。 by Kurt Hickman

スタンフォード大学のManu Prakash准教授らの研究チームが、10年以上開発を続けているのは「水滴で動作するコンピュータ」だ。「水滴がかかっても動作するコンピュータ」ではないことに注意してほしい。
コンピュータの訳語が「電算機」であることからもわかるように、現在のコンピュータは、電子的に情報を処理するための機械だ。電圧の高低によって「0」、「1」という二進数のビットで情報を表現し、プログラムにしたがってビット列を処理していく。
しかし、ビットを表現するのは電気でなくともかまわない。アラン・チューリング(コンピュータの動作原理を理論的に確立した英国の数学者)は、「チューリングマシン」という仮想的な機械を使ってコンピュータの動作原理を説明したが、このチューリングマシンは情報の処理にテープを使っている。ビットを表現でき、なおかつビットの状態をルールに従って変化させられるのであれば、どんなモノを使ってもコンピュータは実現できるのだ。
Manu Prakash准教授らの水滴コンピュータでは、水滴の有無によって、「0」「1」の状態を表現する。
水滴コンピュータの実物は、スライドガラスの上に小さな鉄のバーで回路を作り、もう1枚のスライドガラスで挟み込んだもの。このガラス内に、磁性ナノ粒子を含む水滴を注入する。
現在のコンピュータでは処理のタイミングを同期するために、「クロック信号」を用いる。水晶が振動するタイミングに合わせて、すべての回路を同期させることで、正確に情報を処理できるのだ。
水滴コンピュータのクロックになるのは、磁界だ。回路の周りを、磁界を発生させる装置で囲み、一定の周期で磁界を反転させる。磁界が反転するたびに、磁気を帯びた水滴は、回路で描かれた道筋にしたがって動いていく。鉄のバーの回路パターンを書き換えることで、現在のコンピュータで実現できる論理回路はすべて再現できるという。
現在のトランジスタに比べるとこの水滴コンピュータの動作速度は極めて遅いが、研究チームの目標はたんに水滴を使ってコンピュータの原理を再現することではない。物理的なモノを使って演算が行える、まったく新しいタイプのコンピュータを開発することだ。

(文/山路達也)

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