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「マイクロ爆発」で、新素材を作り出す

2015.9.24

固体シリコンの上に透明な二酸化ケイ素の層を置き、レーザーを照射。原子レベルの「マイクロ爆発」が起こり、新しい性質を持った材質へと変化する。

既知の物質でも、超高温や超高圧の環境におくと、原子構造が変化しこれまでにない性質を持つ。例えば、ただの水でも1万気圧の環境では、常温で凍るようになる。
超高圧環境を作り出すための、現在主流の手法が、ダイヤモンドアンビルセル(Diamond Anvil Cell:DAC)だ。これは、2つの小さなダイヤモンドの間に試料を挟み込んで圧縮するというもの。単純な仕組みだが、数百万気圧もの圧力を掛けられる。ただ、現状DACでは、非常に小さいサイズの試料しか圧縮できず、工業用にスケールアップしにくい欠点がある。
オーストラリア国立大学 Andrei Rode教授らの研究チームは、レーザーを使った手法で超高圧環境をつくり、新しい性質を持ったシリコンを作成することに成功した
固体のシリコンを二酸化ケイ素(シリカ)の透明な層で覆い、レーザーを照射。すると、シリコンの内部でプラズマが生じて「マイクロ爆発」が起こり、瞬間的に超高温・超高圧環境が生まれ、シリコン原子の構造を変化させる。温度は1万K(ケルビン)、1億気圧にも達すると推測されるという。
実験によって、6種類の新たな構造が通常のシリコンから生成された。うち2つの構造は、理論的には予測されていたが、実験室でも自然環境でも存在しなかったものである。新しく作られた構造のシリコンは、これまでにはなかった電子的な属性を持つと予想されており、適切なドーピング(不純物を添加すること)を行えば、電気抵抗がゼロになる超伝導性を持つ可能性もある。
一般的に原子構造を変化させた材質は不安定だが、マイクロ爆発では構造変化のサイズが極めて小さく、瞬時に冷却されて凝固するために安定している。研究チームが生成した新素材は、1年以上安定した性質を保っている。
研究チームのJodie Bradby博士によれば、レーザーによるマイクロ爆発は、従来の方法よりも安価で大量生産プロセスにも適しているという。新素材探索のレースは、ますます熱を帯びることになりそうだ。

(文/山路達也)

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