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空気から、炭素繊維を紡ぎ出す

2015.10.19

空気中から取りだした二酸化炭素で作成した、カーボンファイバーの顕微鏡写真。

幅広い産業分野で、炭素繊維の需要が高まっている。炭素繊維の比重は鉄の4分の1、比強度(引張強度を重さで割った数値)は鉄の10倍、剛性も鉄の7倍と、鉄よりも圧倒的に軽くて強靱なのだ。
炭素繊維の代表的な用途は航空機や自動車の構造材である。例えば、航空機のボーイング787ドリームライナーでは、機体比率の50%がCFRP(炭素繊維強化プラスチック)でできている。主翼や胴体などエンジン以外のほとんどの部位がCFRPになったことで機体が軽量になり、同クラスの767(CFRPの使用比率は3%)に比べて、燃費は2割以上向上している。また、BMWの電気自動車i3では、上部骨格という主要構造材にCFRPを採用して話題を呼んだ。
現在の炭素繊維はPANという物質(アクリル繊維の主成分)を炭化させて作る手法が主流である。だが、ジョージ・ワシントン大学のStuart Licht教授らの研究チームが開発したのは、空気中から二酸化炭素を取り出し、それを炭素繊維にするという手法だ。
Stuart Licht教授らの手法では、融解炭酸リチウムという物質を使う。この融解炭酸リチウムの中には、別の化合物である酸化リチウムが溶け込んでいる。この酸化リチウムは空気中の二酸化炭素と結合し、炭酸リチウムとなる。
融解炭酸リチウムの入った容器には電極がつながれており、電圧をかけると酸素と炭素、そして酸化リチウムに分解され、電極には炭素繊維が付着する。電流量や化合物の量を調整することで、炭素繊維の形状や直径のコントロールが可能で、なおかつ均一な繊維を生成できる。さらに、従来よりも安価に炭素繊維を製造できるという。
この手法のポイントは、空気中の二酸化炭素を削減できることだ。研究チームの試算によれば、サハラ砂漠の10%程度の面積があれば、世界の大気レベルを産業化以前のレベルに、10年程度で戻せるという。しかも、その10年間、現在と同様に二酸化炭素を排出しながら、である。
炭素繊維はビルなどの建築材料としても期待されており、安価に製造が可能になれば爆発的な需要が生まれる可能性もある。二酸化炭素の削減と、安価な炭素繊維の製造という「二兎狙い」が実現できるかもしれない。

(文/山路達也)

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