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グラフェンの切り紙細工が、
マイクロマシンになる

2015.10.26

グラフェンで作られた、超微細なバネ。強靱な上、半導体としての性質も備えている。

折り紙や切り紙といった日本伝統の遊びは、世界の科学者を魅了してきた。シンプルな二次元の紙から複雑な三次元形状を作り出すこれらの遊びには、ユニークな幾何学的性質が備わっており、数学の一分野にもなっている。折り紙の工学的な応用としては、人工衛星の太陽電池パネルを展開・収納するためのミウラ折りが有名だ。また、本誌でも紹介したが、コーネル大学のJesse Silverberg博士らは、折り紙を使って微小なメカニカルスイッチを実現しようとしている。
コーネル大学には紙細工好きの研究者が集まっているのかもしれない。2015年7月に、コーネル大学のPaul McEuen教授らの研究チームが発表したのは、グラフェンによる切り紙細工だ(グラフェンとは炭素原子が六角形の網目状に結合した物質で、厚みは原子1個分しかない)。
ごく普通の紙に、適切なパターンで切り込みを入れると、バネのように伸縮させることができる。研究チームは、半導体製造で使われるリソグラフィ技術を使って、紙バネのパターンを厚さ10μmのグラフェンシートで再現。グラフェンの両端には金製の小さな取っ手を、やはりリソグラフィを用いて取り付けた。取っ手を取り付けたのは、マニピュレーターで操作しやすくするためだ。
グラフェンでできた微細なバネは、自在に曲げ伸ばしできる上、半導体としての性質を備えている。元のサイズの倍以上に伸ばしても伝導性は変化しなかったという。
研究チームは、平面的なバネのほか、ピラミッド状の立体的なバネや、ちょうつがい状のパターンも作成した。ちょうつがいのパターンでは、10000回以上開閉しても、まったく損傷は見られず、元と変わらないしなやかさを維持していた。
ナノスケールでこれだけの強靱さをもった素材は例がなく、マイクロマシンを実現するためのキーコンポーネントになる可能性がある。グラフェンの微細バネが生み出す力は、モータータンパク質(ATPが分解されて生じる化学エネルギーを、運動エネルギーに変換するタンパク質。人間の筋肉にあるミオシンなどもモータータンパク質)に匹敵するため、人工筋肉などの素材になるかもしれない。研究チームは、細胞や脳内の様子を調べるためのセンサーとしての応用を検討中だ。

(文/山路達也)

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