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電気を直接利用して生きる微生物

2015.11.2

A.ferrooxidansという細菌は、電気エネルギーを使って、二酸化炭素から有機物を合成する。

電気エネルギーを直接取り入れて活動する———そんなSFのような生物が存在することを理化学研究所 中村龍平博士、石居拓己研修生、東京大学 橋本和仁教授らの共同研究チームが明らかにした
私たち人間を含む動物は、他の生物を食べ、その養分から活動に必要なエネルギーを取り出す「従属栄養生物」だ。その一方、植物のように自ら養分を作り出す「独立栄養生物」もいる。
独立栄養生物が養分を作り出すには、エネルギーが必要だ。光合成のできる植物は太陽エネルギーを使って二酸化炭素からデンプンを合成。化学合成細菌は、化学物質を酸化させてエネルギーを取り出す。光合成か化学合成。生物が養分を作る手段はこの2つの手段しかないと今までは考えられていた。
ところが近年、深海底の研究が進んだことで状況が変わってきた。深海底には電気をよく通す岩石が豊富に存在し、こうした岩石を通じてマグマの熱や化学エネルギーが電気に変換されることがわかってきたのである。これらの状況から、電気を利用して増殖する微生物が存在するのではないか、という仮説が唱えられるようになってきた。
研究チームは、鉄イオンを利用して化学合成を行う細菌、A.ferrooxidansに着目。エネルギー源となる鉄イオンではなく電気だけ与えたところ、電極の表面で細胞が増殖することがわかった。このことから、A.ferrooxidansは微弱な電位差を利用して、二酸化炭素から有機物を合成して生きる「電気合成生物」だと結論づけた。
ちなみに、東京大学 橋本和仁教授らの研究チームは、微弱電流を発生する微生物を用いた発電についても研究している。こうした電気合成生物の生態や仕組みの解明は、新たな発電システムにつながってくるかもしれない。

(文/山路達也)

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