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200ナノメートルの超薄型グラフェンレンズが
次世代デバイスを作る

2015.11.16

平面で構成されたシンプルなTribot。形状記憶合金のアクチュエータで自在に這い回り、飛び上がる。

ナノテクノロジーの世界においては、光学レンズが重要な役割を担っている。医療用の内視鏡や超小型センサー、太陽電池、レーザーで微小な物体を扱うピンセットなど、レンズがより微細、より高精度になることで、デバイスの能力は飛躍的に向上する。
そのため、超薄型フラットレンズがさまざまな研究機関で開発されているが、これらレンズの応用範囲はまだごく限られている。レンズが対応できる光の波長域が狭いことや、製造が高コストになることがその理由だ。
オーストラリア スィンバーン工科大学とモナシュ大学の研究チームが開発したレンズは、こうした課題を解決できる可能性がある。このレンズは厚さが200ナノメートル。一般的な紙の数百分の1という薄さを実現した。
レンズの材質には還元型酸化グラフェンが用いられている。純粋なグラフェンは炭素の単層膜だが、酸化グラフェンはグラファイト(鉛筆の芯などに用いられているごく一般的な炭素)に、濃硫酸と過マンガン酸カリウムを加えて作る比較的安価な物質。この酸化グラフェンをさらに還元したものが、還元型酸化グラフェン。還元型酸化グラフェンは、純粋なグラフェンほどではないが強靱で適度な導電性がある。
研究チームが作成した還元型酸化グラフェンのレンズは、従来の超薄型レンズに比べて非常に強靱。可視光から近赤外線(波長400〜1500ナノメートル)まで広い帯域の光を、波長以下にまで高精度にフォーカスすることが可能だ。圧力を加えても、フォーカス性能は維持されるという。
高精度かつ丈夫な上、酸化グラフェンから安価に製造できるため、医療分野からエレクトロニクス、エネルギーまで、幅広い分野での応用が期待される。

(文/山路達也)

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