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世界のエネルギー事情を変える?
常圧でのアンモニア合成に成功

2015.11.30

C12A7エレクトライドという物質を触媒として使うことで、従来よりも圧倒的にエネルギー消費の少ないアンモニア合成が可能になる。

アンモニアの分子式はNH₃で、窒素と水素からなる。窒素を含む化学物質を合成するための材料としてアンモニアは使われ、窒素肥料を作るためにも欠かせない。空気中にも大量の窒素は存在するが、窒素ガスは極めて安定した分子で他の物質と容易に反応しないため、化学工業では反応性の高いアンモニアが必要とされる。
アンモニアを生産するために現在用いられているのがハーバー・ボッシュ法だ。500℃、200気圧の環境で、鉄を触媒に水素と窒素を反応させることでアンモニアを生成する。ハーバー・ボッシュ法によってアンモニアを大量供給できるようになったことで、窒素肥料を安価に使えるようになり、世界の農業生産量、そして人口は急増した。
世界を変えたハーバー・ボッシュ法だが、高温高圧環境を作るためにエネルギーを大量に消費することが大きな課題だ。世界のエネルギー消費のうち数%がアンモニア製造に使われているとも言われている。そのため、エネルギー消費の少ないアンモニア合成法の開発は、エネルギー問題にとって極めて重大だ。この分野では、日本の研究者が世界的に注目される研究結果を挙げている。
2010年、東京大学 西林仁昭准教授は、「窒素架橋2核モリブデン錯体」という物質を触媒に使うことで、常温常圧環境でアンモニアを生成することに成功。
2015年9月には、東京工業大学 細野秀雄教授らの研究チームが「C12A7エレクトライド」という物質を使った別のアプローチで、350℃1気圧の環境での生成を成功させた。C12A7エレクトライドというのは、セメントの材料として使われるC12A7に含まれる酸素イオンを電子に置き換えた物質。温度変化に対して安定性が高く、同時に電子を放出しやすいという性質を持っており、エレクトロニクスなどさまざまな分野に応用できると期待されている。
C12A7エレクトライドの上に金属のルテニウムを載せると、C12A7エレクトライド内の電子がルテニウムを通って、周囲の窒素分子へと移動していく。この状態だと、窒素分子の強固な結合を容易に切り離すことができるので、アンモニアを常圧で合成できるのだ。
細野教授によれば、この手法を使うことでアンモニアの生産設備を省エネ化かつ小型化できるようになり、必要な場所、タイミングでアンモニアを合成する道が拓かれるという。

(文/山路達也)

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