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遺伝子操作された蚊が、マラリアを撲滅させる

2016.1.12

マラリアを媒介するハマダラカ。遺伝子を操作した蚊を繁殖させることで、マラリアを撲滅しようという研究が進んでいる。

熱帯地方を中心に発症するマラリアには毎年世界で約2億人が感染し、数十万人が死亡している。2000年以降、マラリアの患者は世界で4割以上減少しているとはいえ、衛生設備の整っていない途上国の人々にとって脅威であることに間違いない。
マラリアの病原体はマラリア原虫という寄生虫で、この寄生虫に感染したハマダラカを通じて人に感染が広がっていく。マラリアの感染を抑えるには、媒介者であるハマダラカの繁殖をいかにして抑えるかがカギになる。
カリフォルニア大学アーバイン校およびサンディエゴ校の研究者は、ハマダラカの遺伝子を操作することでマラリアの撲滅を目指している
研究チームは、ハマダラカの遺伝子にマラリア原虫への抗体を作る働きを持ったDNAを挿入。遺伝子操作されたハマダラカの子孫の99.5%に、この形質が遺伝することがわかった。つまり、遺伝子操作されたハマダラカが繁殖するほど、人へのマラリアの感染が減ることが期待される。
今回の研究で使用されて話題を呼んだのが、2013年に発表されたCRISPRという遺伝子操作技術だ。これはDNAの二本鎖を節電して、DNA配列を任意に削除、置換、挿入できるというもの。CRISPRは従来の技術に比べて、圧倒的に早く、正確、なおかつ低コストに遺伝子操作ができるということで、急速に普及しつつある。科学論文誌「Science」は、CRISPRを2015年の画期的技術に選んでいる。
ちなみに、研究チームはマラリア原虫の抗体を作るDNAとともに、目の中で赤い蛍光を放つDNAもCRISPRで遺伝子に組み込んだ。目が赤い蚊は、マラリア原虫への抗体を備えていることがすぐわかるわけだ。
CRISPRの応用範囲は極めて広いが、当然のことながら、あまりにも簡単に遺伝子が編集できてしまうことに対する懸念の声も上がっている。遺伝子操作された生物は、はたしてどんな影響を生態系に与えるのか? 人類はまた新たな難題を突きつけられることになった。

(文/山路達也)

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