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温度センサーやライトも搭載する、
万能スマート包帯

2016.3.7

MITが開発した柔軟性の高いハイドロジェル。赤く写っているのは温度センサーや半導体チップを包んだポリマーであり、高度な医療機能を実現する。 Credit: Melanie Gonick/MIT

人体に直接貼ったり、埋め込んだりできる医療用デバイスは、巨大な市場を築くと予測されており、世界中の研究機関が開発にしのぎを削っている。
例えば、米イリノイ大学やDARPA(米国防高等研究計画局)などは、皮膚に貼り付けて心拍数や体温などの情報を取得できる「電子タトゥー」を開発している。日本では、東京大学 染谷研究室がくしゃくしゃに丸めることのできる、薄さ2マイクロメートルの電子回路の開発に成功。羽毛よりも軽いセンサーも夢ではなくなった。
MITが2015年12月に発表したのは、情報をセンシングするだけではなく、簡単な治療も行える「スマート包帯」だ。
このスマート包帯のカギとなっているのは、MITのXuanhe Zhao准教授が開発したハイドロジェル(含水率の高いジェル)。一般的なハイドロジェルは、柔軟性に欠けて耐久性が低く、接着力も弱い。ところが、Zhao准教授のハイドロジェルは人間の体組織に匹敵する柔軟性と強靱さを備え、なおかつ金属やガラス、シリコン、セラミックスなどの表面に強力にくっつく。
MITの研究チームは、ジェルの内部に導電性ワイヤーやLEDライトを埋め込み、膝や肘のような箇所で曲げ伸ばししても問題なく動作する電子回路を実現。さらに、温度センサーや薬剤の貯蔵スペースも組み込み「スマート包帯」を完成させた。皮膚の温度変化をセンサーが読み取り、必要に応じ適切なタイミングで薬剤が放出される仕組み。火傷などを、その場で治療するデバイスへの応用などが期待される。
さらに研究チームでは、ハイドロジェルを使ったインプラントの開発も検討している。新開発のハイドロジェルは体内の免疫機構に攻撃されず、なおかつ耐久性が高い。長期間体内に埋め込んでデータを収集する、血糖値センサーや神経探査デバイスへの応用も可能だという。

(文/山路達也)

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