Science News

スパコン「京」が、太陽黒点の謎に迫る

2016.6.27

太陽の内部は乱流が渦巻いており、それが複雑な磁場を生成して、地球にも影響を与えている。スパコンは磁場生成の謎を解き明かすか?

私たちにとって最も身近な恒星である太陽は、たくさんの謎を秘めている。中でも最大の謎が、黒点(周辺より比較的低温になっており、暗く見える部分)の仕組みだ。黒点の数は約11年で変動することが知られているが、なぜ11年なのか、どういうメカニズムになっているのかはまだわかっていない。
たんに黒点が増減するだけならよいのだが、黒点の数は太陽活動と密接にリンクしており、それは地球にも大きな影響を与える。例えば、1645年から1715年にかけて黒点の数が極端に少なくなったマウンダー極小期は太陽活動が停滞し、中世の寒冷期の原因になったと言われている。ただし、黒点数の増減だけでは気温変化を説明し切れておらず、さまざまな仮説が提唱されている。(参考:Telescope Magazine「太陽の謎を解明する。地球は寒冷化するのか?」)。
太陽の内部は不規則な乱流で占められており、この乱流が磁場を生成して黒点の増減に影響していることはわかっていたのだが、磁場が生成される詳しいメカニズムは不明だった。乱流はカオス(初期条件のわずかな差で大きく違った結果を生ずるような現象)であり、それをコンピュータでシミュレーションすることが困難だったのである。千葉大学の堀田英之特任助教、米国HAO/NCARのMatthias Rempel博士、東京大学の横山央明准教授らの研究チームは、独自に開発した音速抑制法という手法をスーパーコンピュータ「京」で使い、計算効率を従来よりも大幅に向上させることに成功。小さなスケールの乱流が大規模な磁場を生成する過程をシミュレーションによって明らかにした。さらに、10年単位の周期的な磁場活動を再現することにも成功した。今後、研究チームは衛星からの観測によって、シミュレーションが導き出した理論を検証し、太陽の謎に迫る。
現在、太陽活動は停滞気味で、地球が停滞期に入る可能性も指摘されている。これからの気候変動に立ち向かうためにも、太陽の謎の解明は大きな意味を持つことになるだろう。

(文/山路達也)

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.