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単一の原子でできた究極の微小磁石が
記憶装置を変える

2016.7.25

究極の磁石は原子1つ分のサイズ。超小型の磁気記録デバイスが登場するかもしれない。

コンピュータで扱うデータを記録するために、今でもハードディスクなどの磁気記録デバイスは欠かせない。最近はより低消費電力のフラッシュメモリへの置き換えも進んでいるが、磁気記録デバイス自体にもイノベーションが起こる可能性は大きい。
イノベーションにつながると期待されていることの1つが、磁石のコンパクト化だ。磁気記録デバイスは、乱暴に言えば小さな磁石がたくさん集まったものであり、それぞれの磁石の向き(N極、S極)によってデータを記録している。
では、磁石はどこまで小さくできるのだろうか?
磁気を生み出しているのは、おもに原子に含まれる電子の「スピン」という性質であり、理論的には原子1個から磁石を作ることができる。しかし、磁気記録デバイスを作るためには、外部に磁気がなくても磁気が残る「残留磁気」がないと情報を保持できない。これまで、原子1個で安定した残留磁気を実現するのは非常に困難だった。
スイスEPFLのHarald Brune博士とETHのPietro Gambardella博士らの研究チームは、ホルミウム(元素記号Ho, 原子番号67)というレアアースを使い、原子1つ分のサイズの磁石を作ることに成功した。
研究チームは銀の表面に酸化マグネシウムの薄膜を生成。この薄膜上にホルミウムの原子を配置し、これが磁石としての性質を持っていることを確認。これが、情報の記録に使えるのだという。
1つの原子でできた磁石とはいっても、安定した状態でいられるのは絶対温度で40度、摂氏マイナス233.15度という超低温環境だ。それでも、これまで最小と言われていた3〜12個の原子で構成された磁石よりも、はるかに高い温度での動作を実現したのだとか。ホルミウム原子1個の磁石は、動作温度の高さと安定性で世界一ということになる。
ホルミウム単一原子磁石はまだ研究室レベルの話ではあるが、磁性記録デバイスにもまだ新たな可能性があることを示している。

(文/山路達也)

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