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シビレエイが、
クリーンなエネルギーのカギを握る?

2016.8.22

人間を感電させるほどの電流を放出するシビレエイ。この仕組みを応用すれば、半永久的に体内で動作するインプラントも実現できるかもしれない。

エネルギー分野では、生物を模倣した発電方法の研究が進んでいる。二酸化炭素と水、太陽光で発電(あるいは糖を生成)する人工光合成のほか、ブドウ糖を分解して発電するバイオ電池などもあるが、まだ変換効率が低く、実用的な発電方法には至っていない。
だが、エネルギー源となる物質(ATP)を元に、ほぼ100%という極めて高い効率で発電する生き物は現に存在する。それは、デンキナマズやシビレエイといった「強電気魚」だ。
これら強電気魚の仕組みを参考に効率的な発電装置を目指し、理化学研究所 生命システム研究センターの田中陽博士らの研究チームは、シビレエイを用いた発電デバイスを試作した。
まず、生きたシビレエイの頭部に物理的な刺激を加えたところ、ピーク電圧19V、8Aのパルス電流が発生し、LEDの点灯も可能であることが確認された。また、シビレエイから電気器官を取り出し、アセチルコリン溶液(神経伝達物質)を注入することによっても、ピーク電圧1.5V、ピーク電流0.64Aを達成した。
そして、シビレエイの電気器官を3cm角にカットし、アセチルコリン溶液を注入するための注射器と電極を接続したデバイスを作成。このデバイスを16個直列につなぐことで、ピーク電圧1.5V、ピーク電流0.25mAの安定した電流を取り出し、コンデンサに蓄えることができた。つまり、シビレエイから取りだした電気器官を使って、電池を作成したわけだ。
現段階では、あくまでシビレエイの電気器官をそのまま使っているだけなので、これで電池を大量生産できるわけではない。しかし、今後電気器官の仕組みが詳細に解明され、同様の仕組みを人工的に再現できるようになれば、従来よりも圧倒的に高効率の生物電池ができる可能性もある。半永久的に動作する医療デバイスの電源や、バイオマスの高効率利用など、広い分野での応用が期待できそうだ。

(文/山路達也)

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