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皮膚をあらゆる細胞にリプログラミングするチップ

2017.10.23

カーボンナノチューブで作られたバイオ燃料電池。汗に含まれる乳酸を酸化させて、発電を行う。
小さなチップに電流を流すと、皮膚の細胞から別の細胞への分化が始まる。

iPS細胞を始めとする21世紀の生物学がもたらした大きな知見は、人間のような多細胞生物であっても、ある細胞を「リセット」して別の機能を持った細胞へと分化させられるということだ。
iPS細胞などを用いた再生医療はここ十数年のホットトピックだが、オハイオ州立大学ウェックスナー・メディカル・センターの研究チームが開発した「チップ」は再生医療のさらなるブレークスルーになるかもしれない。
このチップを使った治療の手順は非常にシンプルだ。特定の遺伝子をセットした、数センチメートル四方のチップを患者の皮膚などに置いて、微弱な電流を流す。すると、チップ上の遺伝子が皮膚の細胞に導入されて初期化が行われ、別の細胞への分化が始まる。チップに電流を流して分化が始まるまでは、1秒ほど。処理が終わったらチップは外してしまえばいい。
研究チームは、脚を傷つけたマウスとブタで実証実験を行った。マウスやブタの皮膚細胞にチップを使って遺伝子を導入し、血管の細胞へと分化するようにしたのである。処理を行ってから1週間以内に損傷した脚に正常な血管が作られ、第2週までには脚が治療された。また、別の実験では、マウスの皮膚細胞を神経細胞に分化させ、脳卒中による神経細胞のダメージを修復させることにも成功した。チップによって分化した細胞は元々自身の細胞であるため、免疫抑制剤などを使う必要もない。
これまでの再生治療では、細胞を分化させる処理をあらかじめ行っておかなければならなかった。だが、オハイオ州立大学のチップであれば、ケガなどの治療をしながら、細胞の分化処理を行えるわけだ。
今のところはマウスやブタでしか実験は行われていないが、来年には人間を使った臨床実験も行われる予定だという。
このチップが人間にも有効であれば、緊急治療の手法も大きく変わることになりそうだ。

(文/山路達也)

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