No.006 ”データでデザインする社会”
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初音ミクに学ぶ
ユーザーを巻き込むテクノロジー

 

  • 2014.04.30
  • 文/石井 英男

近年、UGM(User Generated Media)やCGM(Consumer Generated Media)という新しいメディアの概念を表す言葉を耳にすることが増えてきた。これらは、ユーザー参加型メディアや消費者参加型メディアと訳され、ユーザー自らがメディアに対して積極的に関わり、ムーブメントを作り出していくというものである。TwitterやFacebookなどのSNS(Social Networking Service)の活用もその一例だ。そのUGMやCGMの威力を示す好例が、「初音ミク」のヒットであろう。初音ミクは、ユーザーを巻き込むことで当初の想定を大きく上回り、社会現象といえるほどのブームとなったのだ。今回は、初音ミクのヒットの軌跡と、大ヒットの理由について考えていきたい。

単なる音源ではなく
キャラクター性を持たせたことが重要なポイント

「初音ミク」のことはよく知っているという人も多いだろうが、まずは、その生い立ちから解説したい。初音ミクとは、クリプトン・フューチャー・メディア社(以下クリプトン)から発売されているボーカル音源ソフトウェアで、ヤマハが開発した音声合成技術「VOCALOID」(ボーカロイド)をベースにつくられている。VOCALOIDは、実際に収録した人の声をつかって、自然な歌声を合成できることを特徴としており、初音ミクでは声優の「藤田咲」の音声が使われている。当時の藤田咲には、特定のキャラクターのイメージがさほど定着しておらず、既存のキャラクターイメージで初音ミクが売れたわけではないことがわかる。(過去に演じてきたキャラクターのイメージの影響を受けることを避けるため、特定キャラクターのイメージが強い声優は意図的に避けたという)。

クリプトンがこの音源ソフトウェアにキャラクター名を付けて売るという決断をしたのは、その前身となるソフトウェアの販売で失敗をした経験からだ。2003年2月にヤマハがVOCALOIDの最初のバージョンを発表し、それを元に英国のZERO-G社がソフトウェア「LEON」(男声)「LOLA」(女声)を発売。日本では、クリプトンが販売の代行を行ったが、売れ行きは芳しくなかった。クリプトンの代表取締役である伊藤博之氏は、「パッケージに"男女の口の周りだけを切り取った写真"しか出ていないため、実際に出せる音のイメージがわかりにくい」ことを原因と捉え、初音ミクの前に発売した「MEIKO」という女声音源ソフトウェアから、女性キャラクターをパッケージに起用した。MEIKOは予想を超えるヒット製品となり、その成功を踏まえて、初音ミクでは女性キャラクターをよりアピールするパッケージを採用したのである。

また、初音ミクという名前は、「未来から来た初めての音」という意味を込めて付けられており、年齢は16歳、身長は158cm、体重は42kgというプロフィールが設定されている。しかし、それ以上にプロフィールが細かく設定されてはおらず、ユーザー自身が自由に想像して楽しむ余地があったことも、ヒットにつながった一つの要因だ。

2007年8月に発売された初音ミクのパッケージの写真
[写真] 2007年8月に発売された初音ミクのパッケージ

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