No.006 ”データでデザインする社会”
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ユーザーの情熱をひきだすテクノロジー

このように、初音ミクはユーザーをうまく巻き込むことで、当初の想定を大きく上回るヒット製品へと成長したのだが、この事例から学べることは、「ネット社会においてUGM(User Generated Media)/CGM(Consumer Generated Media)の力は非常に大きい」ということだ。

UGM/CGMは、いわゆるバイラルマーケティング(口コミ)と似ているが、見知らぬユーザー同士の繋がりによって、新たなコンテンツが生まれていくところが、単なる口コミとは違う点だ。UGM/CGMによって、製品を広めていきたいと考えている企業にとって、初音ミクでクリプトンが行った施策は参考になると言えるだろう。クリエイターの二次創作を過度に制限することは、コンテンツを広めるという点では、決してプラスにはならないのだ。

そして、このUGM/CGMの中で、「初音ミク」という情報が急速に拡がっていった最大の要因は、「コンシューマーにとって親しみやすいテクノロジーを創りあげた」ことだろう。初音ミクの特徴は、冒頭に述べた通り、ただの音源にキャラクターを設定したことにあるが、この設定により、初音ミクというキャラクターをバーチャルなシンガーとして扱うことが可能になり、創作イメージを搔き立て、"クリエイティブを刺激する存在"として注目を集めた。 また、それらの創作イメージを尊重し、二次創作を許諾したことにより創作の連鎖が続き、ここまで大きなムーブメントに発展した。もしキャラクターが設定されていなかったら、これほどの盛り上がりは見られなかったに違いない。iPhoneのように、わかりやすいインターフェイスをつくるのも「親しみやすさ」の一つの方向性ではあるが、ヒューマノイドという文脈でキャラクター化するのもその一つだといえよう。魅力的なキャラクターを設定し、オープンエンドでユーザーの参加を募ったことで、CGMによる広がりを実現したのだ。そして、このCGMこそが、当初の音源を販売するというビジネスモデルの枠組みを超えて桁違いのマーケットを生み出した要因なのである。これは、従来の日本企業が得意としていたクローズドなプラットフォームに対し、オープンエンドなプラットフォームの設計と言えるのではないかと思う。そして、このようなオープンなプラットフォームにおいては、ユーザーの情熱をひきだす、テクノロジーと仕組みが求められてくるのである。

Writer

石井 英男(いしい ひでお)

1970年生まれ。東京大学大学院工学系研究科材料学専攻修士課程卒業。
ライター歴20年。大学在学中より、PC雑誌のレビュー記事や書籍の執筆を開始し、大学院卒業後専業ライターとなる。得意分野は、ノートPCやモバイル機器、PC自作などのハードウェア系記事だが、広くサイエンス全般に関心がある。主に「週刊アスキー」や「ASCII.jp」、「PC Watch」などで記事を書いており、書籍やムックは共著を中心に十数冊。

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