No.006 ”データでデザインする社会”
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パーソナルデータの行方

 

  • 2014.05.30
  • 文/淵上 周平

毎日の生活の中で、ネットや情報端末などに様々なパーソナルデータが散在するようになっている。Webアクセス履歴、購買履歴、位置情報など、種類も多岐にわたる。これらのデータを横断的に活用できれば、画期的なサービスや、防災や福祉への活用など、社会にとっての貢献も大きい。しかし、パーソナルデータを扱うにはプライバシーの保護の観点から制約が存在し、現状では横断的な活用はなされていない。現在審議が進む国の政策の動向を踏まえながら、パーソナルデータと社会がうまく付き合う方法について考える。

生活の隅々で取得されるパーソナルデータ

Web環境が生活の隅々に入り込んできた結果、個人に関する様々な情報が蓄積され、その利用が進みつつある。

今や多くの人が、肌身離さず持ち歩くデバイスになった携帯電話には、GPSによる位置情報や、アプリの利用による各種情報などが、Webを通じて常時蓄積されている。こうしたデータは、たとえば警察が捜査に必要だと判断し、手続きをとればアクセスが可能で、「あなたがある日時、だいたいどこに居て、誰と通話し、スマートフォンでどんなデータのやりとりをしていたのか」などの情報が簡単に分かってしまう。あるいは街中や店舗のいたるところに設置されている監視カメラの映像データも、犯罪抑止または犯罪発生時の捜査のための情報提供のために、大量のデータが保存されている。轢き逃げ事件の犯人逮捕で、コンビニの監視カメラが映し出す店外の映像が活用されていることはご存知の方も居るだろう。また、駐車場に入退場する自動車のナンバープレートをカメラで認識し、その番号から車検証情報を取得し、所有者の住所などをマーケティングに利用する、というシステムも実用化されている。

活用の一方では、その利用が個人情報保護に触れるとしてとして問題を呼んでいるケースもある。例えば、独立行政法人「情報通信研究機構」が、JR大阪駅の駅ビルに設置されたカメラと顔認証技術を使って個人の追跡実験を行おうとし、実験開始前に、市民からの異議や意見が寄せられ、"炎上"し中止となったという事件も起こっている。

http://www.nict.go.jp/press/2014/03/11-2.html

われられの個人情報でもあるパーソナルデータがどのように活用されうるのか、現在議論されている制度の方向性も含めて見ていこう。

政府によるパーソナルデータ利用推進の後押し

様々な目的のために取得された個人と紐付いたデータが、個人とは離れたところに大量に蓄積されている。こうした状況を背景に、そのデータ利用による経済効果や公的サービスの充実を視野に、政府も推進の方向性を示し、内閣IT総合戦略本部でアナウンスしている。

「平成25年6月に決定された「世界最先端 IT 国家創造宣言」において、 IT・データの利活用は、グローバルな競争を勝ち抜く鍵であり、その戦略的な利活用により、新たな付加価値を創造するサービスや革新的な新産業・サービスの創出と全産業の成長を促進する社会を実現するものとされていることから、個人情報及びプライバシーの保護を前提としつつ、パーソナルデータの利活用により民間の力を最大限引き出し、新ビジネスや新サービスの創出、既存産業の活性化を促進するとともに公益利用にも資する環境を整備する。」

内閣IT総合戦略本部 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部決定
パーソナルデータの利活用に関する制度見直し方針
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/dec131220-1.pdf

規制改革の一環として政府が「民間の個人情報売買の解禁」に踏み切るという報道*1もあった。政府がこうした検討に踏み込んでいるのは、利活用の動きが事業者を中心に始まりつつあり、また事業者から強い要望がある一方で、障害となる事案、事件が多発していることも背景となっている。"個人情報流出"という言葉がニュースに取り上げられることは日常茶飯事といっていい。悪意を持ってシステムに侵入しユーザーのパーソナルデータやカード情報などを盗み出すクラッキングの事件や、組織内の人物がパーソナルデータを持ち出して業者に販売する事例、顧客データの入ったPCや記録媒体を紛失するなどして流出する事例、システムの設定ミスにより秘密にされておくべきデータが公開されてしまう事例など、流出・漏洩に関する事件が日々起こっている。

事業者としては、こうした事件に加え、取得した個人に関わるパーソナルデータをどこまで利用していいのか、それが個人情報に該当するのか否かなど、判断が困難な「グレーゾーン」が拡大していることも懸念点となっている。消費者のプライバシー意識と事業者のパーソナルデータの利活用に関する認識・意識の不一致が存在し、消費者の不安の表明やネガティブな話題として"炎上"することもある。たとえば、名前や住所を含まないSuicaユーザの行動履歴データの販売を、JR東日本が開始したところ、「問題があるのではないか」等の意見が多数寄せられ、その販売を中心したという事案などはその典型である。

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