No.004 宇宙へ飛び立つ民間先端技術 ”民営化する宇宙開発”
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日本が主要部分を担当する30m望遠鏡「TMT」

巨大なプロジェクトには、長い時間とたくさんのお金がかかる。すばるが完成したのは、検討が始まった15年後。開発には400億円を要した。そのため早めに動き出す必要があり、日本の次世代望遠鏡「JELT」の構想が始まったのは2002年ころ、すばるの本格的な観測が開始されたばかりのころだった。

ところが、問題となったのは巨額の開発費。すばるまでは、なんとか日本単独で建設することができていたが、口径30m級を想定していたJELTには、1,000億円オーダーの予算が必要になると見積もられた。日本の財政事情を考えると、日本のみでこのプロジェクトを進めることは現実的ではない。

そこで、海外との連携を模索。同じく30m級の望遠鏡を検討していた米国の「TMT(Thirty Meter Telescope)」との合流を決めた。TMT以外にも次世代望遠鏡の計画はあったのだが、他の計画は南米・チリへの建設が確実。南半球だと北半球と見える天体が異なり、すばるとの連携が難しくなるため、ハワイを有力な選択肢に入れていたTMTに白羽の矢が立ったというわけだ。

TMTの完成イメージの写真
[写真] TMTの完成イメージ
Credit:国立天文台TMT推進室

TMTは国際連携のプロジェクトである。米国、日本、カナダ、中国、インドの参加各国が費用と製作を分担する計画になっており、日本はこのうち、望遠鏡本体の設計・製作・据付という、まさにTMTのコアといえる部分の開発を担当する予定。これはすばるの開発で見せた、日本の高い技術力が評価されてのことだ。

ポイントは、このように巨大な主鏡をどうやって構築するかだ。すばるの主鏡は、1枚の大きな鏡になっていたが、さすがに直径30mにもなると、1枚で作るのは技術的にもコスト的にも困難。そのため、Keck望遠鏡*1で実績のある、複数のセグメント(分割鏡)を組み合わせて大きな鏡にする手法を採用した。各セグメントは対角1.44mの6角形で、これが合計492枚(82種類×6セット)も集まって、直径30mの凹面鏡が構成される。

6角形のセグメントがびっしりと並んだTMTの主鏡の写真
[写真] 6角形のセグメントがびっしりと並んだTMTの主鏡。各セグメントは能動的に向きをコントロールすることも可能だ
Credit:TMT Observatory Corporation

観測装置は順次開発されるが、当初は「近赤外撮像分光装置(IRIS)」「広視野可視分光器(WFOS)」「近赤外多天体分光器(IRMS)」の3種類で観測をスタートする*2。TMTでは、主鏡の中心部に大きさ2.5m×3.5mの平面鏡である第3鏡を設置。主鏡、副鏡を経て集められた光は、この第3鏡でさらに反射して観測装置に届けられる仕組みだ。第3鏡には、鏡の向きを変えて観測装置を選択する役割もあって、大型の観測装置を交換することなく、迅速に切り替えることが可能となっている
(参考リンク http://www.tmt.org/gallery/video/optical-path )。

30mという大口径を実現することで、すばるに比べ、TMTの解像度は約3.6倍向上、感度は約180倍になる。これは月面の蛍1匹を検出できるほどの性能だという。すばるでは、28等までの明るさの銀河を見ることができたが、TMTでは今まで誰も見たことがない32等という、極めて暗い銀河が見つけられると期待されている。もしかしたら、宇宙で最初に輝いた星で構成される"初代銀河"も発見できるかもしれない。

TMTは2014年度から建設を開始し、2021年度に完成する計画。遠方銀河の発見のほか、太陽系外惑星の観測や、ダークエネルギーの謎の解明なども期待されている。

Thirty Meter Telescope(TMT)
http://tmt.mtk.nao.ac.jp/

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