No.004 宇宙へ飛び立つ民間先端技術 ”民営化する宇宙開発”
Scientist Interview

火星への片道切符を手にするのはどんな人か

──さて、マーズワンの大きな特徴は、火星探索に行く人々が片道切符でミッションに参加するということです。つまり、行ったら残りの人生をずっと火星で過ごすことになる。なぜ戻ってこないのでしょうか。

ここが可能と不可能の分かれ道だからです。もし、火星に着陸した人間を地球に戻そうとすれば、地球からロケットを打ち上げる以上の巨大な装置が火星で必要になる。しかし、それを可能にするテクノロジーはないのです。装置を組み立てるだけの人間も工場もありません。戻ってくるためには、現在予測される100倍以上のコストがかかります。

──しかし、そうして火星に行ったきりになってもいいという人々は見つかるのでしょうか。

まだ正式な申請受付は始めていませんが、今年1月までに「行きたい」と希望する人々から1000通以上のメールが来ていました。そして1月に飛行士の必要条件を明らかにしたところ、さらに1500通が届き、現在3万3000人が選考手順に関するニュースレターを購読しています。われわれも興味深かったので、「なぜ行きたいのですか」と質問を出したところ、今度は5000通の回答が戻ってきました。

──どんな理由がありましたか。

全てを代弁することはできませんが、理由はさまざまです。たとえば「人生を意味のあるものにしたいから」という人もいます。地球でもいい人生を送っているが、このミッションに参加すれば自分の人生は永遠になるという。また、有名になりたい人、探検が好きな人、新しい場所へ移り住んで冒険をしたい人もいます。われわれは、片道切符のミッションに対して非人道的などと大きな批判が巻き起こると予想していたのですが、意外なことにそれはありませんでした。

──実際にマーズワンの飛行士に必要な資質は何ですか。

私自身は、医者やエンジニアのような具体的な技能を持つ人間が必要だと思っていたのですが、マーズワンの医療ディレクターで、NASAに長年在籍したノーバート・クラフトによると、最も重要な資質は健康で頭の良いことだという。また、無人島でもずっと一緒にいてもいいと思うような相手であることも大切です。飛行士たちは信頼し合いながら問題を解決していけるような、気が張らない関係でなければいけません。火星でケンカをするわけにもいかないので、リードすべき時はリードし、従う時には従えるような性格を求めています。そうした人々を選んで、その後8年間の訓練を施し、生命維持装置の修理を行ったり、骨折を治療したり、簡単な手術もできるようにします。こうしたことは頭さえよければ修得可能な技能なのです。

──飛行士のチームは4人ですが、どのような選考プロセスを計画していますか。

2013年前半には、国際的な選考プログラムを開始する予定です。われわれが提示する資質に合うと考える希望者ならば、誰でも応募できます。その中から、われわれが適性がないと見られる人々を省きます。第2段階では、それぞれの地域にいる選考委員3人による面接が行われ、そこでさらに選考が行われます。第3段階は各国での選考になりますが、ここではそれぞれの国民にも参加してもらって人選します。この段階までにすでにかなり適任であろうという人物が選ばれていますから、自分たちの大使として火星に送りたいかどうかを、国民にも決めてもらうのです。ここで国民が1人選び、マーズワン側でも1人選びます。そして各国から2人が、今度は国際選考に進みます。国際選考では、2015年から2018年までの間に4人のグループを6から12組選び、彼らを訓練するという方法をとります。できるだけ多様な国の参加者から成るグループを目指していますが、互いにうまくやっていけるチームであるかどうかも判断するのです。そして2022年になってようやく、第1回のミッションに参加する飛行士チームを選ぶという手順です。

──4人の性別や年齢はどのように組み合わせますか。

孤立した状況では男女両方がいるチームの方がいいとされています。ただ、男女半々にこだわるよりは、組み合わせの良さを優先します。年齢についても同じです。いろいろなチームができることでしょうが、28歳から60歳、あるいは65歳までとなるでしょう。応募の最低年齢が18歳なので、訓練を経て火星に行くまでには最低でも28歳になっているでしょうし、またあまり高齢だと体力面で火星で行う作業に耐えられません。

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