No.004 宇宙へ飛び立つ民間先端技術 ”民営化する宇宙開発”
Scientist Interview

火星でのミッション

──火星ではどのような作業が期待されているのでしょうか。

最初に行くチームのためには、前哨基地が準備されていますが、そこを住みやすくするためには多くの工事が必要になるでしょう。また、2回目のミッションのチームのための貨物も届くので、彼らが居住するための準備もしなければなりません。ですから、作業の大部分は工事です。また、植物栽培も重要な作業です。自分たちの食物は自給するため、4人分を栽培するとなるとかなりの仕事です。おそらく有効な時間の半分が工事と栽培に費やされるでしょう。水は、飲料水も含めて、最初から火星の土壌から採ります。水があれば酸素も作れます。地球と同じく窒素もあるので、植物も育つ。もちろん、肝心の火星探索も行います。当初はなかなかその時間をとることはできないでしょうが、可能になればすぐに始めて欲しいことです。われわれはみな、火星への好奇心からこのミッションに携わっているのですから。これが最も重要な作業です。

──火星に行ったチームには、心理面ではどんなことが起こると予想していますか。

誰にとっても、これは非常に挑戦的な環境になる。ですから、われわれが選考プロセスで見極めるのも、それに合った性格かどうかです。その上で彼らを訓練してテストします。孤立した環境で火星をシミュレートし、そこで毎年3ヶ月ずつ8年間に渡って過ごしてもらう。何もかもうまく行けばいいですが、生命維持装置が故障したり、居住ユニットで漏れがあったり、水の供給がなくなったりしたらどうするか。そんな時でも、彼らがチームとしてうまく機能していけるかどうかを試すのです。

──1990年代初頭にアメリカのアリゾナ州で、地球環境をシミュレートした閉鎖空間の中で研究者チームが2年間を過ごす「バイオスフィア2」という実験がありました。最初のチームは2年と20分を過ごして出てきましたが、2番目のチームは仲違いを起こしてプロジェクトは中断されました。予想外のことも起こりえますね。

バイオスフィア2の最初のチームは、酸素が予想以上に少なくなっていくという経験をしています。新しいコンクリートが酸素を吸収してしまうのを計算に入れていなかったのです。そんなことも含め、いろいろな問題がありましたが、それでも素晴らしい偉業だった。あのおかげで、われわれはバイオスフィアとはどんなものなのかを理解するようになりました。もちろん人間関係上の問題もあったでしょう。しかし、それはどんなグループにもある。私と仲間の間でも議論もあり挑戦もある。逆に言えば、議論がないチームこそ問題です。なぜなら議論によってこそ、問題は解決していくことができるのですから。

──マーズワンのチームは、地球とコミュニケーションもするのでしょうか。

コミュニケーションはいつでも可能です。ただ、電話は難しい。地球と火星が最も接近している時でも3分、太陽を挟んで反対側にある時には21分の遅れが生じますから、会話を成り立たせるのは簡単ではありません。けれども、ビデオによるレターをやりとりするという手はあります。

──火星から帰還することが可能になるのは、何年後になると思いますか。

第1回ミッションが火星に到着してから10年、20年後でしょう。しかし、もし10年としても、その頃には火星の低重力環境に身体が適応し、筋肉が衰えて骨密度も大きく減少しています。身体としては地球上の60%ほどの強度しかなく、地球に戻るのにさらに6ヶ月かかることを考えると、最初のチームが地球で暮らせるようになるのはほとんど不可能と思われます。

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