No.004 宇宙へ飛び立つ民間先端技術 ”民営化する宇宙開発”
Scientist Interview

人類を火星へ送る理由は、創造的原動力

──スペースXを創設したシリコンバレーの起業家、イーロン・マスクは、地球上の環境が悪化するため、火星移住は人類の存続のために必須だと言っています。マーズワンも同様の理由で、火星へ人間を送るべきだと考えているのでしょうか。

10年以内に地球が破滅することはないでしょうが、何か間違いが起こることはあるでしょう。ただ、マーズワンはそれとは異なったいくつかの理由で火星を目指しています。実は、科学研究は最優先課題ではありません。もちろん、地球よりも古い歴史を持つ火星を探求することで、太陽系や人類の歴史について新しい視点が得られることは間違いありません。火星で生物が見つかれば、偉大な科学的発見になるでしょう。2つの惑星に生物が存在するのは、決して偶然ではない。それならば、他の惑星にも生物が存在するかもしれないのです。しかし、マーズワンが火星を目指すのは、人類がこうしたことからしか得られない創造的原動力のためです。アポロ11号が有人月面着陸を果たした1969年当時、私自身はまだ生まれていませんでしたが、その瞬間自分がどこにいたかをみなよく覚えているでしょう。そして、その時味わった大きな感動を決して忘れることはない。ことにアメリカでは、「どんなことでも可能なんだ」と国民が感じた。人々は楽観的になり、その楽観性が何ごとをもたやすいものにしたのです。今、地球ではテロや戦争が続き、経済危機があり、嵐や洪水が起こります。しかし、何かポジティブなことをみなが一緒になってやることは可能なのです。それによって、地球が少しでもいい場所になる。だからこそ、マーズワンは世界中をこのミッションに巻き込みたいと考えているのです。

──マーズワンは非営利組織(NPO)として運営されていますね。

マーズワンはNPOですが、営利組織であるインタープラナタリー・メディア・グループ(IMG)の過半数株主になっています。IMGは、ミッションの放映権を販売し、大きなスポンサー企業を探す。IMGはまた投資を受けることもできます。大きな機材要素調達のために、当初はこの投資が必要です。一方、調達先は純粋に調達先であることが不可欠で、関連企業から機材要素を寄付してもらうといったことはしません。なぜなら、もし調達先を変更しなければならなくなった時に、ヒモ付きであっては困るからです。そこは独立性を保つ必要があるのです。投資と一般からの寄付が当初の収入源となります。

──ミッションのコストはどのくらいですか。

第1回ミッションの4人のチームを火星に送るのに必要なのは、約60億ドルです。しかし、段階を追って進めていくため、すぐにこれだけの巨額な資金がいるわけではありません。

──そしていったんミッションが開始すれば、放映権収入が見込まれるということですね。

そうです。ちょうど国際オリンピックのようなしくみです。ロンドン・オリンピックは約40億ドルの放映権やスポンサー企業からの収入を上げていましたが、開催期間はたった3週間です。他方、火星に人間が居住するということになれば、これは人類史最大のイベントになります。誰もがテレビを見るはずです。インターネットも現在の2倍以上、40億人に普及している。文字通り、万人がその様子を観たいと思うはずです。もちろん2年ほども経てば視聴率は落ちてくるかもしれませんが、その頃には火星へのミッションのコストも下がっている。2回目からは40億ドルほどでまかなえるはずです。

──ミッションが回を重ねるに従い、火星でやることも変化していくのでしょうか。

そうです。第1回のミッションは、先述したように建設と栽培が中心になり、その後も飛行士のステーション建設やコンピューター、コミュニケーションに必要な多くの貨物が地球から運び込まれます。しかし、3回、4回のミッションが行われるころには、火星でプラスティックやコンクリートなどの素材を作りながら、居住ユニットを建設したり、発電したりといったことができるようになると予想しています。発電は当初ソーラーパネルを持ち込みますが、そのうち火星上の素材を用いて同様のパネルを作ったり、藻を利用して発電したりといったことも考えられます。ただ、せいぜい12人、16人の人間がいるだけですから、工場生産のようなことができるわけではありません。

 

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