No.004 宇宙へ飛び立つ民間先端技術 ”民営化する宇宙開発”
Scientist Interview

──現在、ヴァージングループ創設者であるリチャード・ブランソンのヴァージン・ギャラクティックなど、宇宙探索のための新興企業がいくつかできています。その中でマーズワンの位置づけはどのように異なるのでしょうか。

ヴァージン・ギャラクティックは、大気圏を飛び抜けて帰ってくる弾道飛行を提供する宇宙旅行会社ですから、火星探索とは異なります。お金持ちがちょっと変わったことを体験するサービスを提供する会社でしょう。また、スペースXは、イーロン・マスク自身は火星に人を送ることに関心はあるものの、会社としてはロケットを製造し、基本的には輸送手段を提供する会社です。ですから、火星に人間を移住させはしません。アマゾン・ドットコム創設者のジェフ・ベゾスもやはりロケットに関心があり、宇宙にアクセスするコストを下げようとしている。他には、マーズ・ソサエティー、マーズ・ドライブ、エクスプロアー・マーズなどの組織があり、いずれもマーズへのミッションを行うか、それをサポートしようとしています。ただ、マーズワンは2つの点で彼らとは異なっています。ひとつは、火星への片道旅行であるということ。これが技術的、財政的な実現可能性に大きな意味を持ちます。もうひとつは、世界の人々を引き入れて資金作りをし、すでにあるテクノロジーを組み合わせてミッションを実現するところです。

──火星へ移住するとは、われわれ一般人には超未来的な話に聞こえるのですが、マーズワンには実現可能性がしっかりと見えているわけですね。

そうです。テクノロジー上、財政上、そして心理的にも可能です。もちろん、極度に複雑なプロジェクトですから、何か間違いが起こる可能性はたくさんあります。それでも、投資家を含めたわれわれのチームは、取るに値するリスクであると考えている。つまり、成功の可能性は大きく、リスクを補って余りあると信じているのです。そうして、マーズワンが成功し、数10年後に人々が火星行きのチケットを買うような時が来れば、われわれの役目も終わるのです。

Profile

バス・ランスドルプ

2003年にオランダのトゥウェンテ大学で機械エンジニアリングの修士号を取得、その後デルフト大学に在籍。2008年には風力発電の新興企業を創設して売却、2011年にマーズワンをアルノ・ウィルダーズと共に創設した。幼い頃から宇宙探索、ことに火星への飛行を夢見て育った。マーズワンは、これまでのような国家プロジェクトとしての宇宙開発や、現在新興企業が計画している宇宙旅行ではなく、世界の人々が熱中する真の国際的な火星居住プロジェクトとなるようビジネスプランを立てた。

Writer

瀧口 範子

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。上智大学外国学部ドイツ語学科卒業。雑誌社で編集者を務めた後、フリーランスに。1996-98年にフルブライト奨学生として(ジャーナリスト・プログラム)、スタンフォード大学工学部コンピューター・サイエンス学科にて客員研究員。現在はシリコンバレーに在住し、テクノロジー、ビジネス、文化一般に関する記事を新聞や雑誌に幅広く寄稿する。著書に『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』(TOTO出版)『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』(TOTO出版)、訳書に 『ソフトウェアの達人たち(Bringing Design to Software)』(アジソンウェスレイ・ジャパン刊)、『エンジニアの心象風景:ピーター・ライス自伝』(鹿島出版会 共訳)などがある。

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