LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
Topics
テクノロジー

原発数基分の送電ロスをなくす「超伝導直流送電」

高圧直流送電のさらに先を目指して、中部大学の山口作太郎教授らのチームが研究しているのが「超伝導直流送電」である。
電気抵抗がゼロになる超伝導状態を利用した送電は、さまざまな機関で開発が進められてきたが、これらのほとんどは交流送電であった。実は、超伝導状態であっても交流で送電する場合には電気抵抗はゼロにはならず、熱が発生する。超伝導ケーブルは絶縁材料で覆われているため、これを冷却するのはとても効率が悪いのだ。さらに、交流送電の場合は、ケーブルが三本必要だが、直流なら一本ですむ*2
超伝導送電と聞いて多くの人が疑問に思うのは、冷却ではないだろうか。超伝導状態を実現するためには極低温にする必要があり、冷却剤が必要になる。送電ロスを減らせても、冷却にそれ以上の電力を使うのであれば意味がなくなってしまう。
現在使われている超伝導ケーブルはビスマスという金属を含んだ銅酸化物の超伝導体でできており、これを超伝導状態にするには液体窒素で-196℃に冷却する。液体窒素は、液体ヘリウムに比べると格段に安価な冷却剤であり、山口教授によれば「冷却コストを含めても、交流送電に比べて一桁から二桁は送電ロスを減らせる」という。中部大学では、動力を使わず液体窒素を自然循環させ、さらに熱の侵入を防ぐ技術を開発することで冷却システムの消費エネルギーを減少させることに成功している。
超伝導送電でもう一つネックになると考えられるのは、超伝導ケーブルそれ自体のコストや資源の問題だが、山口教授はこれについても大きな問題はなさそうだという。超伝導ケーブルに使われるビスマスは、無鉛ハンダにも使われる材料で資源量は問題ない。超伝導体には銀も使われているが、世界的に見て90年代以降に銀の消費量は激減した。これは、銀を使う銀塩フィルムカメラからデジタルカメラへの移行が進んだためだ。銀は貴金属であるため価格はそれほど下がっていないが、超伝導ケーブルの超伝導体はテープ状になっており使用する銀の量は微量である。また、資源としては銅の逼迫の方が問題になっているため、銅線を超伝導ケーブルに置き換える方が資源的には問題が少ないという見方もできる。

超伝導送電線の構造
[写真] 超伝導送電線の構造。内側の管の中に超伝導ケーブルが入っており、液体窒素で冷却される。その外側の管内は真空状態になっており、熱の侵入を防ぐ。

ケーブルのコストについても、住友電工が量産技術の開発に成功したことで、大幅に低価格化を実現できた。実は現在使われている交流の地中線も、油をポンプで循環させて冷却を行っている。超伝導直流送電ではケーブルが一本で済むため、建設費用も低く抑えられる。こうしたことを考慮すると、送電する電流当たりのコストは、すでに超伝導ケーブルの方が従来の地中線を下回っている可能性もあるということだ。

中部大学内に建設された、200mの超伝導直流送電実験設備。
[写真] 中部大学内に建設された、200mの超伝導直流送電実験設備。画面下から上へと延びている銀色の施設が、超伝導ケーブルを内包した送電線である。

現在、中部大学では200mの超伝導直流送電設備を使って、実験を行っている。実験データを分析した結果、液体窒素の冷却装置は2kmごとの設置でも大丈夫ということがわかってきた。今後は2km級の送電設備を建設し、さらに冷却装置の間隔を長くしても安定して送電できるようにすることを目指す。実際、このような規模(2.5kmプロジェクト)での実験はすでにロシアで始まっている。山口教授らが目標とする冷却装置の間隔は20kmで、これはだいたい東京・川崎間に相当する距離である。現在の変電所もこれくらいの間隔であるため、液体窒素の冷却装置を変電所に置くことができれば、インフラ投資コストをかけずに超伝導直流送電を行う目処が立ってくる。
また、データセンター*3への応用については、さらに早い段階で実現できる可能性もある。今のデータセンターでは100Vもしくは200Vの交流で電力が供給されており、電力変換器の損失が大きいため、48Vの(超伝導でない)直流送電にして損失を抑えようという動きが進んでいる。ただし、直流の48Vはケーブルが極めて大型になるという欠点がある。ここに超伝導直流送電を導入することで、送電損失とコストの両方を抑えられる。中部大学が開発した熱侵入を防ぐ技術を使うことで、短距離・大電流でも超伝導直流送電が有効に使えるという。

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.