AIをもっと賢くするAGI、株取引に応用 (2/5)

──AIを使う上で重要になるのは何でしょうか

データです。世界中から行動データを集めてAIが認識できるようにすれば、もっとデータが皆の役に立つようになります。

最近、英国がEUから離脱する決定をしましたが、当社のAIはそのことを予測しませんでした。AIがこういう出来事をどうやって予測するのか、追及すると面白いかもしれません。英国のEU離脱は国民の投票行動でした。もし、グーグルグラスやアップルウォッチをすべての国民が持っていてSNSに出回る人々の本音のデータを利用できれば、結果は違っていたかもしれません。今回の投票では、田舎の人々や都市部の若者は離脱賛成に投票しましたが、当社のAIは、これらの投票データを予測アルゴリズムに入れていませんでした。しかし、年配の人々のパブでの議論や若者たちのナイトクラブでの議論などのデータをAIで解析できたりするようになれば、予測は可能になるはずです。

AIがこうした議論に介入して本音のデータを利用できるようになれば、AIは若者が投票に行くかどうかに予測できるようになるかもしれません。ヘルスケアやウェアラブルのIoTから得られる感情的なデータも含め、予測することが可能になります。今から5年後には、スマートウォッチを誰もが持つようになり、クラウドも当たり前になるでしょう。

そうしたことが実現されれば、投票データが金融市場をドライブするでしょうし、これらのファクトをもとに、AIが政党の対立を伝えるとか、AIがSNSの会話パターンを認識したデータをリリースするような時代が来るかもしれません。

こういったことはソフトウエアの集積やお金をかけることで実現できるでしょう。これが起きないという理由はありません。企業は、フェイスブックやライブビデオストリーミングを推進しており、これらの利用率が高まると、もっと多くのデータがフェイスブックにフィードされます。そうなるとフェイスブックには、政治や投票などに興味がない人のデータも集まり、それらのデータが株式のアプリケーションにプラグインされるようになります。

AIはまだ初期段階、金融取引に拡大していく

──AIが株式取引に用いられるのは初めてではないようですが（参考資料1）

そうです。今やヘッジファンドがAIを使い始めており、米国では効果が出ています。米国では、Quantitative Investment Management（https://www.quantitative.com/)が、 2001年から使い始め、カリフォルニアのCerebellum Capital（http://www.cerebellumcapital.com/）、ニューヨークのRebellion Research（https://www.rebellionresearch.com/）などがAIを使ってきた実績があります。今や、ヘッジファンド企業はどこもAI研究者を大勢雇っています。

5〜6年先には80〜90％の金融商品の取引にAIが使われるようになるでしょう。今や日本や米国、英国でのヘッジファンドの取引の85〜90%は、（AIではありませんが）ある種のソフトウエアプログラムで動いています。香港ではこの比率が50〜60%とまだ低く、これは取引の規模が日、米、英と比べて小さいからです。まだAIを使うレベルまで来ていないということです。

5〜7年前からヘッジファンドはソフトウエアによるシステムを使う様になってきており、それが今ではAIへ変わり始めています。だからこそ、もっとAIを賢くしなければならなくなってきたのです。そのためにもっと多くのデータが必要とされてきています。

──株取引にAIを使う場合、ある企業がAIで有望な株を指名したら、ほかのAIも同様に指名して、みんな同じ銘柄を買うのではないでしょうか

今は、市場全体におけるAIの比率がまだ低いため、それほど大きな影響は出ていません。米国株式市場での大きな投資が始まったばかりで、AIを利用するファンドはまだ100億ドルにすら届いていない現状です。だから、質問のようなことは、まだほとんど問題になりません。なぜなら大銀行は今、簡単なアルゴリズムでもっと多くのエクイティ(株式)を扱っているからです。ヘッジファンドでさえもまだ小さいのです。

しかし、大きなアセット(資産)を持つファンドもいます。香港IFC（International Finance Centre：国際金融中心）に集結する、金融企業が持つアセットの総額は9兆ドルもあり、毎日トレーディングしていますから、今後は今よりもAIが導入されるでしょう。実際、優秀なAI研究者がたくさん雇われ始めています。しかし、金融市場にAIを活用するためには、コンピュータのアルゴリズムをもっと賢くする必要があります。そのために、ハードウエアとデータ、アルゴリズムの3つが重要で、開発にはお金と時間がかかるため、優秀な研究者を雇う必要があるのです。