No.011 特集:人工知能(A.I.)が人間を超える日
Expert Interview

人間との連携で実力を発揮

──人的な資源と人工知能は連携するのでしょうか。

最後の営業の部分には、人間同士のフェイス・トゥ・フェイスが必要だと考えています。例えば、お客さまへのこんな調査結果があります。

「あなたは保険会社に接触する前に自分でインターネットを使い情報を入手しようとしますか?」という質問に、80%以上がイエスと答えています。それに対して「あなたは最終的にオンラインで保険を契約しますか?」という質問には、18%ほどしかイエスと答えていないのです。

また「保険を契約する時に誰と決めたいですか?」という質問には、奥さんというディシジョンメーカーとか、信頼できる公平なプロフェッショナルという答えが返ってきます。つまり、最終段階ではフェイス・トゥ・フェイスによる人の関与が求めてられているのです。

ただ、これは保険業界の悪い面でもあるのですが、必ずしも営業マンのクオリティに満足していただけるとは限りません。公平で、分かりやすく説明してくれる人にお客さまは出会いたいと思っています。お客さまにとって正しい人間に巡り合うまでの間が一番重要なので、人工知能はそのマッチング役に活用されると予想しています。

 

──それぞれのお客さまにとって「正しい人間」は違うものでしょうか。

そうです。個人の若い方だったり、中小企業のオーナーであったり、お客さまによって会いたいタイプは違うはずなので、そこまでのプロセスが充足される必要があります。営業マンにも色々な強みを持っている人がいるので、正しい人、正しい商品群、正しいサービスに辿りついてもらうプロセスが重要です。

保険の販売では、商品の説明だけできれば良いというものではありません。通常、お客さまの質問というのは非常に漠然としたところから始まります。「私は保険に入るべきでしょうか?」という質問はとても簡潔なのですが、答えるのが恐ろしく難しい。

それはなぜか。お客さまの人生観、家族構成、年収、持ってらっしゃる興味、事業のリスク、今後リスクを取りたいのか取りたくないのか、今が大事なのか将来が大事なのか、様々なことをしっかり網羅した上でないと、正しい解答が出せないからなのです。

中小企業のオーナーから質問されたら、その方が勇退するタイミングや事業承継の考え方だとか、誰に継がせるか、自社株の処理はどうするかなど広範なことを知っておかないとコンサルティングはできないものです。

そのために実は途方もない時間と素養が必要です。当社のトップパフォーマーなどを見ていますと、やはりものすごく勉強しています。加えて、人間味もなければいけません。

──人工知能の役割は、あくまで両者が出会う道筋を立てるところにあると。

まずは、お客さまのハイレベルな要望を人工知能がしっかりと聞く。どんな難しい言い方をされる方でも、それを正しく、手順良く聞き、ニーズに基づいてしっかり合った営業マンまで導く。最初から優秀な営業マンに対抗できる人工知能が必要かというと、多分そうではありません。

正しい営業マンまでナビゲートするには、公平でロジカルな役割が必要です。ただし、お客さまが最後に決断する部分では、エモーショナル的にも信頼を置きたいですよね。お客さまは自分の人生を預けるわけですから。人工知能は当面、そこに至るまでのプロセスを埋める存在になる気がします。

 

Profile

松田 貴夫(まつだ たかお)

アクサ生命保険株式会社

取締役 専務執行役 兼 チーフマーケティングオフィサー

三井生命保険相互会社において数理部、商品開発部、マーケティング部門を経て、アメリカンファミリー生命保険会社に入社。アフラックダイレクトドットコム株式会社に出向し、取締役 チーフマーケティングオフィサーに就任。その後、アメリカンファミリー生命保険会社においてマーケティング戦略企画部長、商品開発部長、商品本部長などの要職を歴任。2008年9月、アクサ生命保険株式会社に入社。執行役員チーフマーケティングオフィサー、常務執行役員チーフマーケティングオフィサーを経て、2010年6月、取締役専務執行役兼 チーフマーケティングオフィサーに就任し、現在に至る。 名古屋大学工学部卒業。日本アクチュアリー会正会員。1968年6月27日生まれ。

Writer

神吉 弘邦(かんき ひろくに)

1974年生まれ。ライター/エディター。
日経BP社『日経パソコン』『日経ベストPC』編集部の後、同社のカルチャー誌『soltero』とメタローグ社の書評誌『recoreco』の創刊編集を担当。デザイン誌『AXIS』編集部を経て2010年よりフリー。広義のデザインをキーワードに、カルチャー誌、建築誌などの媒体で編集・執筆活動を行う。Twitterアカウントは、@h_kanki

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