No.013 特集 : 難病の克服を目指す
連載02 デジタル化した触覚がUIとメディアを変える
Series Report

第1回
触感を電子技術で自在に創り出す時代が到来した

 

  • 2017.3.17
  • 文/伊藤 元昭

最近、電気的な仕掛けによって、モノが動く感触や表面の質感を再現する技術の提案が相次いでいる。その一部は、広く普及している電子機器において既に採用済みだ。これまで、電子機器のユーザーインターフェースや人と人をつなぐメディアは、視覚と聴覚を中心に情報伝達が行われてきた。しかし、人の触覚を自在に操る技術が確立すれば、従来伝えることが難しかった「実体感」を人工的に作り出すことができるようになる。本連載では、第1回で触覚を自由に操る技術の開発動向と課題を、第2回で触覚を自在に操って作る新しいユーザーインターフェースを、第3回でモノの触感をありのままに再現したり長く記録したりするための触覚メディアの開発動向を解説する。

パソコンやスマートフォンのアプリケーションを操作するとき、さらにはインターネット上のサービスを利用するとき、私たちは視覚と聴覚を通じて機械と対話している。また、テレビを見たり、電話で会話したりするときも視覚と聴覚に頼って情報を得ている。文字や数字、写真や動画、グラフィックス、音楽や音声など、現在の電子機器とユーザーの間でやり取りする情報の大部分は、人の視覚と聴覚を通じて得ている。

人間は、備わっている五感、「視覚」「聴覚」「嗅覚」「触覚」「味覚」のそれぞれから、同じ量の情報を得ているわけではない。人間が認知している情報の内訳は諸説あるが、「産業教育機器システム便覧」によれば、視覚から83%、聴覚から11%、嗅覚から3.5%、触覚から1.5%、味覚から1%であるという。つまり、9割以上の情報を視覚と聴覚を通じて得ているわけである。電子機器を操るためのユーザーインターフェースや情報伝達に使うメディアが、視覚と聴覚に訴えるものであることは、とても理にかなっているように感じる。

触覚の活用に注力し始めたApple

ところが近年、ユーザーインターフェースやメディアで、触覚を通じた情報のやり取りを可能にするための技術開発が急激に進んできた。しかも、電気的な仕掛け利用して、様々な感触を人工的に再現する技術と、それを活用した新しいユーザーインターフェースやメディアが、次々と提案されている。

最も広く知られた例が、Apple社がスマートフォン「iPhone」のタッチパネルなどに採用している、触覚フィードバック技術「3D Touch」である(図1)。タッチパネル上のアイコンをユーザーが指で押すとき、パネルを押し込む感覚を人工的に作り出す。アクチュエーターと振動するおもりを組み合わせた部品「Taptic Engine」*1を使い、アイコンを押した圧力に応じてパネルを振動させる。これによって、実際にはパネルは押し込まれていないのに、あたかもパネル上に表示したボタンを押し込んだかのような感触を作り出すのだ。

iPhoneの中でアイコンなどを押し込む感触を生み出しているTaptic Engine。これにより「3D Touch」を実現している。
[図1] iPhoneの中でアイコンなどを押し込む感触を生み出しているTaptic Engine。これにより「3D Touch」を実現している。
出典:Apple社のビデオ

電子関連の展示会では触覚ブームが起きている

触覚フィードバック技術は、米Immersion社が1990年代から開発と製品化を推し進めてきた。同社は、衝突や爆発、振動、叩く、触れる、擦れる、上昇感・下降感といった120種類以上の感触をコントローラーで作り出すゲームソフトウェア開発キットを提供している。そして2000年代に入ると、アルプス電気、京セラ、SMKなど多くの電子部品メーカーが、Immersion社の技術に独自の技術を加味した触覚フィードバック式のタッチパネルを、展示会などで披露するようになった。

そして現在、電子関係の技術を披露する展示会では、電気的な仕組みを使って感触を人工的に作り出す触覚デバイスの提案が、ちょっとしたブームになっている。触覚フィードバック技術の応用が、ゲーム機のコントローラーなどエンタテインメント分野から、スマートフォンや車載機器など様々な機器へと拡大したことが現在のブームを後押ししている。

日本電産コパルは、2017年1月に米国で開催された「Consumer Electronics Show(CES) 2017」で、Taptic Engineと同様のラテラルフォースフィールド(水平方向の力場)を活用した触覚デバイスを展示した。ラテラルフォースフィールドとは、人間の皮膚が水平方向の振動を触感として認識する性質を利用して、水平方向の振動を変化させて、平面を凸面や凹面と錯覚させる技術である。水平リニアアクチュエーターによる振動の立ち上がり速度・振幅・周波数を高精度に制御することで、触感を自在に作り出す。同社は、スマートフォン以外にも、車載機器、住宅設備などのユーザーインターフェース、仮想現実(Virtual Reality:VR)での触覚出力への応用を提案した。

[ 脚注 ]

*1
Taptic Engine: Tapticは、Touch(触れる)とHaptic(触覚的)からなるApple社の造語である。
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