No.012 特集:にっぽんの自然エネルギー
Cross Talk

国が用意するロードマップ

── 経済産業省では水素社会の実現に向け、どのような青写真を描いているのでしょうか。

大平 ── 水素については、使うときに二酸化炭素を出さなくても、作るときにどうなのかまで見なければいけません。作るのにも再生可能エネルギーを使って完全なCO2フリーにしようと、これを2040年以降に実現することを目指しています。

ただ、いきなりそこへは行けないので、段階的に進めていこうと。まずは燃料電池というものを普及させていこうとしています。2014年に初めて自動車が発売されましたが、その他には、家庭用の燃料電池が17万台普及しています。

佐藤 ── テレビCFに出たきっかけで、実家にも入れました!

大平 ── 自動車でいうと乗用車だけではなく、バスなども含めて2025年から2030年にかけて本格的な普及が始まるようにしていきたい。これが最初のステップです。とはいえ、実は自動車で使える水素の量ってそれほど多くないんです。

日本全体で今、工業原料などに使われている1年間の水素の量は150億立法メートルと言われています。それに対して自動車が使う量は1台あたり1年間でおよそ1,000立法メートルですから、割合としてはものすごく小さい。

佐藤 ── さっきのF1とサッカーのスケール比較みたいなものですよね(笑)。

大平 ── そうです(笑)。量としては全然大したことはないんですが、身近なクルマが変われば、人々の意識が変わる。社会へ水素が普及する際に、決してそれは無視できないんです。ただ、ボリュームとして大きく水素の利用を広げていくには、発電の燃料として使っていく必要があると考えています。

今は石油や石炭、天然ガスなどを使っていますが、その代わりに水素を使うのです。それを2020年から小さく始め、2030年にはもう少し大きな発電所に入れる。すると水素が足りなくなるので、今の天然ガスみたいに海外から持ってきましょうと。2030年くらいには水素タンカーを実現したいと考えています。

佐藤 ── そのときFCVはどれくらい普及している見込みなんですか?

大平 ── 2030年で累積80万台が目標です。日本にあるストックって、乗用車で5000万台ですから、まだまだ小さいですよね。それでも相当なチャレンジになります。FCVは5年スパンで開発が進みますから、その頃はきっと3世代か4世代目くらいになっているでしょう。

ハイブリッド車も最初の登場時、色眼鏡で見られていました。それが3世代目から4世代目くらいにかけて普通に売れるようになり、年間販売台数もトップになっていますよね。ロサンゼルスの空港のタクシーを見ても、乗用車はほとんどハイブリッドですから。

佐藤 ── 特にカリフォルニアはその傾向が強いですね。水素もあっという間にその時代が来るというか、やっぱり意識が変わる瞬間が来るのだと思います。1社だけ頑張ってもダメだと思うし、これはエネルギーをどう使っていくかという地球全体の問題です。

自動車なら自動車、飛行機なら飛行機で、いろんな技術者たちが取り組んで、それが一般の生活に入ってくれば、みんなが違和感なく水素エネルギーを使える時代が絶対に来ると思います。

大平 ── 今のガソリン自動車の使い方と変わらないというのが、水素が普及する大きなメリットの一つだと思うんです。環境問題もダイエットもみんなそうなんですけれども、意識してやろうとすると続かないんですよね。意識しないでいても環境に優しい、そういうものを後々に残していきたいですね。

インフラの整備が肝心

── ハイブリッド車や電気自動車に比べ、今後の見込みでFCVが普及する速度が遅い印象を受けるのは、何が原因でしょうか。

大平 ── やはり特別なインフラを作らなければならないことが大きいです。700気圧という高圧の水素をクルマに入れる水素ステーション1箇所を作るために、現状では5億円くらいかかるんです。

佐藤 ── ちなみに通常のガソリンスタンドは?

大平 ── 数千万円くらいですね。

佐藤 ── そんなに違うんだ。

大平 ── それに、水素ステーションはFCVがなかったら建てても儲からないですからね。大体1つのステーションで2,000台カバーすればペイできるという試算があるんですが、今は当然その台数がない。けれどもステーションがないとクルマも売れませんので、まずはクルマがなくてもステーションから作っていこう、というのが国の方針です。

佐藤 ── 最初に大事なのがインフラだと思いますね。電気自動車を購入して何が不安になるかというと、充電をどうするのかですから。アメリカでテスラを最初にやり始めた時も、クルマは面白そうだぞと興味を惹かれたんだけれども、どこで充電できるのかと思いました。

テスラはクルマだけではなくインフラを非常に大事にして、ホテルとコラボして充電場所を作ったりしました。系列のホテルに泊まれば、必ずステーションがあるというように。どこに行っても充電できるというようになって、ようやくクルマ選びの対象になってくる。

だから、水素もやはりエネルギーステーションがたくさんあるのであれば、生活の中に溶け込んで興味を引きますよね。

写真提供:本田技研工業株式会社

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