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SFが現実になる!
物体を引き寄せるトラクタービームをNASAが研究中

2011.12.18

ゴダードレーザーの専門家
ゴダードレーザーの専門家(左から右へ)Barry Coyle氏、Paul Stysley氏、Demetrios Poulios氏は、地球外の粒子のサンプルを収集するための高度な技術を研究するNASAの資金を獲得している。(Photo Credit : NASA's Goddard Space Flight Center, Debora McCallum)

小惑星イトカワから、貴重なサンプルを持ち帰った探査機「はやぶさ」の偉業はまだ記憶に新しい。はやぶさは、小惑星に着陸する際に金属球を発射して岩石を砕き、サンプルをカプセルに取り込むことになっていた。実際にはトラブルのために金属球は発射されず、着陸で舞い上がった微粒子がカプセルに入り込むという幸運に恵まれなければ、サンプル採取は失敗に終わっていただろう。一方、2016年にNASAが打ち上げる予定の小惑星探査機「オシリス・レックス」では、ロボットアームを使ってサンプルを採取するという。
無重力、真空の環境で微細なサンプルを採取するのは、非常に難しい。NASAでは、金属球やロボットアームといった機械的な方法に代わるまったく新しいやり方の検討を始めた。その方法とは、何と「トラクタービーム」だ。謎の円盤から輪っかの光線が発射されると、人が吸い上げられていくという、SF映画やゲームでお馴染みのツールだ。1980年代に流行ったナムコの「ギャラガ」を思い出す人もいるかもしれない。

実をいえばトラクタービームは「光ピンセット」として、すでに実用化されている。レーザーを集光することで、タンパク質分子など、ナノメートル(100万分の1ミリメートル)、マイクロメートル(1000分の1ミリメートル)サイズの微粒子を1個単位で動かせるのだ。ただし、光ピンセットは顕微鏡レベルの距離、対象でないと使えない。
NASAでトラクタービームに挑むのは、3人のレーザー専門家、Barry Coyle氏、Paul Stysley氏、そしてDemetrios Poulios氏だ。彼らは3つの方法を検討しており、検証のために10万ドルの予算が付いている。
1つは、2本の光線を使う方法。光線の強さを調整することで、大気を加熱して微粒子を移動させるというもので、実験でも微粒子を動かすことに成功しているが、大気がないと使えないという欠点がある。2つ目は、渦巻き状に光が伝播していく光ソレノイドビームを使う方法。NASAによれば、光ソレノイドビームは電磁気効果だけで成り立っているため、真空中でも動作するそうだ。3つ目は、ベッセルビームを使う方法。ベッセルビームというのは対象物の経路に電磁場を作ることで、その対象物を引っ張るというもので、まだ理論が提唱されているにすぎない。

トラクタービームの研究は現実離れしていると思われるだろうか? だが、月ロケット、ロボット、通信衛星のように、SF作家のイマジネーションが具現化した技術は少なくないのである。

(文/山路達也)

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