Science News

感染症を防止するスマート縫合糸

2012.10.5

超薄型のシリコンセンサーが組み込まれた、スマート縫合糸。
超薄型のシリコンセンサーが組み込まれた、スマート縫合糸。
Photo Credit: John Rogers

ナノテクノロジーやMEMSが進歩したことで、アナログだったものがどんどん「スマート化」されている。医療分野でもこの流れは加速しており、ついには「スマートな」手術用縫合糸が登場した。
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のJohn Rogers教授らが開発したスマート縫合糸は、ポリマーや絹製の糸に極薄のシリコンセンサーを一体化させたもので、厚みは数百ナノメートル(1ナノメートルは、100万分の1ミリメートル)程度しかない。すでにラットによる動物実験により、普通の縫合糸と同じように針を使って縫えること、縫合してもセンサーの性能に影響がないことがわかっている。
スマート縫合糸に組み込まれたセンサーは、正確に体温を測るために使われる。縫合した傷に異常な体温上昇が感知された場合、感染症が起こっている可能性が高い。
さらに研究チームでは、スマート縫合糸を治療に使うことも検討している。導電性の糸に薬を含むポリマーをコーティング、熱か電気的な信号を糸に流すと、薬が放出されるという仕組みだ。
研究チームが開発した縫合糸には2種類あり、1つはシリコンダイオード、もう1つはプラチナの超薄膜を使っている。前者は温度変化に合わせて電流が変化し、後者は抵抗が変化する。糸に熱を伝えるために使われるのは金のフィラメントで、電流を流すと温度が上がる。
縫合糸に使われている材質はすべて人体には無毒だ。現在のところ、ラットの実験では柔軟性と耐久性の試験のみ行われており、まだ体温測定や加熱機能については試験されていない。現在、研究チームではスマート縫合糸のワイヤレス化も進めているという。

(文/山路達也)

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.