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神経バイパス技術によって、
脊髄損傷から機能回復

2013.6.3

生理学研究所(NIPS)の開発した「人工神経技術」の概要図
(原画:理系漫画家はやのん)

脊髄を損傷して運動機能に障害を受ける患者は、日本国内だけでも毎年4〜5000人発生していると言われる。
現在のところ、脊髄損傷の抜本的な治療方法はまだ見つかっていないが、さまざまな分野で研究が進められており、最近では再生医療の分野が大きな注目を集めている。2010年、慶應義塾大学の岡野栄之教授らの研究チームは、脊髄損傷で首から下が麻痺した小型のサルにiPS細胞を投与して、自力で歩けるように回復させた。2016年には人間の患者(脊髄を損傷してから2〜4週間)を対象にした臨床研究も開始される予定だ。
また、ヴァンダービルト大学などでは、外骨格のように体に取り付けるロボットスーツの開発も進められている。
2013年4月に、生理学研究所(NIPS)の西村幸男准教授とワシントン大学の研究チームが発表したのは、脊髄損傷部分をバイパスしてつなぐ手法。脳からの電気信号が損傷部分で途切れてしまうのであれば、その部分を人工的にバイパスして、機能が残っている脊髄に信号を伝えようというのが基本的な考え方だ。
西村准教授らは、脊髄を損傷したサルの損傷部分をバイパスして、脳の信号を脊髄の運動神経に送る「人工神経技術」を開発した。そして、サルの脳から腕の運動に関わる電気信号の記録を抽出。この信号に合わせて障害部位より下にある脊髄に刺激を与えたところ、腕の筋肉の収縮が見られ、サルは自分で手を動かしてレバーを押すことができるようになった。また、人工神経接続の電子回路をオフにした時は、こうした手の動きが見られなかったという。
義手ではなく自分自身の手を自分の意思でコントロールできるようになった点が、従来の研究とは大きく異なる。西村准教授によれば、「従来、考えられてきた義手やロボットを使う補綴(ほてつ)より実現の可能性が高い(早道である)のではないかと考えています」とのことである。

(文/山路達也)

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