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電源なしで動作する無線通信技術

2013.10.15

クレジットカード大の2つのデバイスは両方ともバッテリーを搭載していないが、相互通信を行っている。Credit: University of Washington

近年、ワイヤレスで通信するデバイスの需要は、急速に高まっている。スマートフォンやタブレットはもちろん、非接触のICカードや、商品管理用のRFIDタグも普及が進む。しかし、モバイルデバイスのワイヤレス通信では、依然バッテリーの課題がある。例えば非接触ICカードの場合、カード側に電源は必要ないが、リーダー/ライター側は電磁誘導(磁場を変化させると電流を生じる現象)を使って電力を送るため、電源が必要だ。
ワシントン大学のShyam Gollakota博士らが開発している「Ambient Backscatter」は、こうした問題への解になる可能性がある。
Ambient Backscatterは、複数のデバイス間でワイヤレスの相互通信を行う技術。どちらのデバイスにもバッテリーが必要ないのが大きな特長だ。
私たちの周りには無数の電波が飛び交っているが、Ambient Backscatterではこうした環境中の電波を利用する。自分自身が電波を発するのではなく、すでに存在している電波を反射させることで、データを送信するのである。そのために必要な電力も、やはり電波から得る。通信媒体だけでなく、電源としても電波を利用するのだ。
研究チームはクレジットカード大のデバイスを作成、テレビ塔から800m〜10km程度離れた場所でデバイス同士の通信実験を行った。その結果、テレビ塔から10km離れている地点でも通信できることを確認。屋内ではデバイス間の距離が1.5フィート(約45cm)、屋外では2.5フィート(約76cm)離れていても、1キロビット/秒の速度で通信を行うことができた。
バッテリー不要のAmbient Backscatterは、デバイスのメンテナンスも不要になるため、さまざまな分野で応用できるだろう。研究チームは、コンクリートや鉄筋の状態をモニターするセンサーを橋に設置し、異常があったら警報を送信するなどの応用例を挙げている。

(文/山路達也)

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