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カーボン素材だけで構成された集積回路を、
世界で初めて実現

2013.10.21

カーボン素材で作られた集積回路。透明で、柔軟性も高い。
Credit: Dong-Ming Sun,Marina Y. Timmermans,Antti Kaskela,Albert G. Nasibulin,Shigeru Kishimoto,Takashi Mizutani,Esko I. Kauppinen& Yutaka Ohno

自由に折り曲げられる電子ペーパー、皮膚のように伸縮自在のセンサーシート……。こうした「フレキシブルエレクトロニクス」は、今後新しい市場を作ると期待されている。日本でも産業技術総合研究所が、フレキシブルエレクトロニクス研究センターを2011年に立ち上げており、産業界と連携して実用化を進めている。
フレキシブルエレクトロニクスにおける課題の1つは、金属製の電極や酸化物絶縁体といった「硬い」材料を集積回路に使う必要があること。ポリマーなどを用いた代替材料も登場しているが、移動度(電子などの荷電粒子が移動する時の平均速度で、回路の処理速度に大きく影響する)が低く、電圧を高くしないと使えないといった欠点がある。
名古屋大学の大野雄高准教授、フィンランド アールト大学のEsko Kauppinen教授らが開発した全カーボンの集積回路は、フレキシブルエレクトロニクスの可能性を大きく広げることになりそうだ。
研究チームは、電極や配線にカーボンナノチューブの薄膜、絶縁膜にアクリル樹脂を使用することで、柔軟かつ透明な全カーボン集積回路を作成することに成功した。この集積回路には、各種論理回路やメモリなどが含まれており、5Vの電圧で動作する。この薄膜トランジスタの移動度は1027cm²/Vsで、単結晶シリコンと同等の性能を実現している。
全カーボンの集積回路に使われている材料は、柔軟性、伸縮性が高いだけでなく、熱成形技術を使って任意の形状にできるのも特徴だ。今回の研究では、ドーム状に熱成形しても集積回路が正常に動作することが確認されている。
今後、研究が進めば、プラスチックを加工するのと同じように集積回路を作成できる可能性がある。こうした集積回路をプラスチック製品に組み込んで電子機器としての機能を持たせれば、電子機器をよりいっそう軽量化、低価格化できるだろう。

(文/山路達也)

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