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体内に埋め込んだイメージセンサーから
生体通信でデータを送信

2014.10.27

実験に使われた超小型のCMOSイメージセンサー。アンテナ用電線がなくとも、受信用電極にデータを送ることに成功した。
© The Institution of Engineering and Technology

半導体技術の進歩によってセンサーの小型化が進み、あらゆるモノの情報がデジタルデータ化されるようになってきた。中でも期待されているのが、人間の体内情報をリアルタイムに取得することだ。血中成分濃度などを長期間にわたって取得できれば、さまざまな病気の治療に役立つ。また、神経活動分布の状況がリアルタイムにわかれば、脳機能の解明がさらに進むのは間違いないだろう。
ただ、体内に埋め込む医療用センサーには、いくつかの課題がある。まず患者の負担にならないよう、センサーはできる限り小型でなければならない。一般的に使われているRF無線通信の場合、通信アンテナを小さくしようとすると、高い周波数帯の電波を使う必要がある。ところが、高い周波数帯ほど、生体組織によって信号が減衰してしまう。減衰分を補うには、信号を高出力で送信する必要がある……というジレンマがある。
こうした課題を解決する手段として注目されているのが、生体自体を信号の伝送媒体にして無線通信を行う生体通信という手法だ。奈良先端科学技術大学院大学 博士前期課程の速水一氏は、無線で信号が伝送されるメカニズムをシミュレーションで再現。実際に、生体内と同等の環境にイメージセンサー(アンテナ用の電線なし)を置き、外部の受信機に対してデータを伝送することに成功した。
この研究では、バッテリーで駆動する低消費電力の超小型CMOSイメージセンサーを、体内の環境を模した生理食塩水に浸し、2ミリメートル離れた受信用の電極でデータを受信できることを実証した。今後研究室では、マウスの脳にセンサーを埋め込んで、脳機能のイメージングを行う研究を行う予定である。
多数のセンサーを脳に埋め込んで、さまざまな領域の神経活動がどう協調しているのかをリアルタイムに調査できれば、脳の解明はさらにスピードアップすることになりそうだ。

(文/山路達也)

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