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低コストで迅速な診断が可能な
「ラボ・オン・ペーパー」

2015.4.30

低コストで病気の診断などが行える「ラボ・オン・ペーパー」

医療やバイオの分野では、「ラボ・オン・チップ」に注目が集まっている。これは、微細加工技術によって液体の流路を作り、試薬などを配置したもの。試料をラボ・オン・チップに垂らすと、流路にしたがって試料が流れて試薬と反応するという仕組みだ。病気の診断や新薬開発など、幅広い用途にラボ・オン・チップが活用できると期待されている。
ロードアイランド大学のMohammad Faghri教授らが開発したのは、より低コストでの検査を可能にする「ラボ・オン・ペーパー」だ。これまでにも妊娠検査薬のように紙を使った診断キットはあったが、紙で実現できるのはあくまで単純な化学反応に限られていた。
ラボ・オン・ペーパーは、ワックスで流路パターンが描かれた、複数の紙の層でできている。研究チームが独自に開発した紙製の微小なバルブ構造によって、試料の流れる先や試薬と反応するタイミングがコントロールされ、複数の試薬を使った複雑な化学反応についても再現できる。試料は毛細管現象(細い管状物体の内側の液体が管の中を上昇する現象)によって流れていくようになっており、機械的な仕掛けもなければ、電力や磁気なども使われていない。そのため、ラボ・オン・ペーパーは、半導体製造技術を使ったラボ・オン・チップに比べて非常に低コストで製造できるという。
Faghri教授によると、ラボ・オン・ペーパーは、ライム病(マダニによって感染する疾患)やHIV、エボラ、マラリア等の診断、環境汚染や生物兵器、化学兵器の検出など、さまざまな用途に応用できるとしている。
研究チームは、ProThera Biologics社と共同でラボ・オン・ペーパーの実験に取り組み、敗血症を診断できることを実証した。すでに重要な特許は取得済で、現在は製品化のために、パートナー企業を募集している段階とのことである。

(文/山路達也)

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