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金属水素の実現まで、あともう少し?

2015.8.24

木星や土星など巨大ガス状惑星の内部には、大量の金属水素が存在すると言われている。金属水素の性質が明らかになれば、天体物理学も大きく進展しそうだ。

水素は常温では気体、極低温では液体というのが常識だ。ところが、導電性を持った金属のような水素、金属水素の存在が理論的には予言されている。
1930年代、ユージン・ウィグナー博士らは、25ギガパスカル(約25万気圧)の超高圧をかけると、水素原子は電子を保持できなくなって金属のような性質を示すと予測した。その後、高圧物理学の分野では、金属水素の実現は「究極の目標」となり、さまざまな研究機関が金属水素の生成にチャレンジしてきた。
中でも有名なのが、1996年に行われたローレンス・リバモア研究所の実験だ。同研究所では、ガス銃で100ギガパスカル(100万気圧)を液体水素にかけて圧縮。100万分の1秒以下という短時間だったが、電気伝導度の測定から液体状の金属水素が生成されたと発表された。
2015年6月に、米国のサンディア国立研究所とドイツのロストック大学の研究チームが発表したのは、水素に超高圧をかける新手法だ。従来の実験ではダイヤモンド製のチップで水素を含むサンプル物質を挟んで圧力をかけるのが主流だったが、この方法ではサンプルの反応性が高くなりすぎて、金属水素にすることができないと研究チームは判断。20メガガウスの磁界をかけられる「Sandia Z」という装置を使って、液体の重水素に強烈な振動を与えて圧縮を行った。サンプルの反射率を測定したところ、金属状態になっていることを確認したという。固体の金属水素の実現に向けた大きな一歩だ。
それでは、金属水素によっていったい何が可能になるのだろう?
金属水素は室温程度で超伝導を実現できる可能性があるといわれているが、これについてはまだ不明な点も多い。現在、注目されているのは天体物理学の分野だ。木星や土星といった巨大ガス惑星の内部は超高圧状態になっており、大量の金属水素が存在すると言われている。金属水素を作りその性質を詳しく調べることができれば、惑星の構造についての研究が大きく進展すると期待されている。

(文/山路達也)

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