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音波による自己組織化の実験で、生命の本質に迫る

2017.8.21

アクリルチューブ内に音波を流すことで、プラスチックの小片が自己組織化することが示された。
アクリルチューブ内に音波を流すことで、プラスチックの小片が自己組織化することが示された。
Credit: Chad Ropp/Berkeley Lab

生命とは何かという問いは、古代から大勢の人間を悩ませてきた。
ローレンス・バークレー国立研究所が発表した研究はまったく生き物を使っていないシンプルな物理実験なのだが、生命の本質に迫る上で足がかりになりそうだ。
1944年、「シュレーディンガーの猫」で知られる物理学者シュレーディンガーは、その名も『生命とは何か』という著作を発表した。この著作の中で、シュレーディンガーは生命現象とエントロピーの関係について考察している。
エントロピーというのは、「乱雑さ」の度合いと説明されることもある物理量だ。テーブルの上にあったコーヒーカップが落ちて割れたとしたら、割れたコーヒーカップは、割れていないコーヒーカップよりエントロピーが増大したと言える。物理学の基本則であるエントロピー増大則は、自然は放っておくとエントロピーが増大する方向へ、秩序から無秩序へ向かうことを示している。ただし、エントロピー増大則が成り立つのは、あくまで「外部との熱の出入りがない、平衡状態にある閉鎖系」の話。放っておいてもコーヒーカップは修復されないが、例えばここに人間が参加すればもう閉鎖系ではないため、コーヒーカップが修復されてエントロピーが減少しても不思議ではなくなる。生命体は外部から食物を取り込み、不要な排泄物を排出するという開放系であり、それによってエントロピーを維持しているとシュレーディンガーは主張した。エントロピーを下げて、生きるために必要な秩序を生み出し、自ら組織化を行っているのが、生命なのである。
だが、外部と熱の出入りがある非平衡状態において、どのように自己組織化が行われるのか実験するのは非常に困難だった。
ローレンス・バークレー国立研究所の研究チームが作成したのは、ごくシンプルな実験装置だ。グリセリン溶液を入れた2mのアクリルチューブの中に、プラスチックのストローでできた小片を浮かべ、スピーカから4kHzの音波を流した。すると、バラバラだった小片は約1cm/分の速度で移動を始め、10分以内に組織化された集合パターンを示すようになった。実験では音波を用いているが、音波以外の波についても同様の現象が起こるはずだという。
今回の実験はどういう成果につながるのだろう? 研究チームによれば、音や光に反応して変化する迷彩や、外部から特性を制御できるスマートマテリアルの開発につながるとしている。さらに将来的には、アルゴリズムに基づく現在のコンピュータとは異なる、感覚的な意志決定システムの基盤になりえるという。
ディープラーニングを始めとする近年の人工知能研究は、機械的なモデルから「知能」の本質に迫ろうとしている。同様に、非平衡状態についての研究は、まったく新しいアプローチで「生命」の本質を明らかにするのかもしれない。

(文/山路達也)

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