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エネルギー消費が圧倒的に少ない淡水化技術で、
水問題に立ち向かう

2018.3.5

ペンシルベニア州立大学で開発中のBDI法による淡水化の実験装置。現在実用化されている淡水化技術よりも格段に少ないエネルギー消費で、淡水化を行える。
ペンシルベニア州立大学で開発中のBDI法による淡水化の実験装置。現在実用化されている淡水化技術よりも格段に少ないエネルギー消費で、淡水化を行える。

数ある環境問題の中でも、最も差し迫っている危機は水資源の問題かもしれない。人間が容易に利用できる淡水は地球上の水のうち0.007%に過ぎないとも言われており、特に近年は発展途上国の経済発展によって淡水資源を巡る争いはさらに激しさを増している。
実用化されている代表的な淡水化技術としては、熱を利用した多段式フラッシュ蒸留法、膜を利用した逆浸透法などがあるが、エネルギー消費が大きかったり、機器の定期メンテナンスが必要だったりと問題も多い。
そこで注目されるようになってきた技術の1つが、容量性脱イオン法(CDI:Capacitive Deionization)だ。エネルギーコストは多段式フラッシュ蒸留法に比べて数十分の1から数百分の1、逆浸透法に比べても数分の1程度と格段に少ない。CDIの原理はシンプルで、水溶液に2つの活性炭電極を入れて電極間に電圧を掛けると電極の表面にイオンが引き寄せられる。交互に電流の方向を変えることで、イオンを電極から放出して除去するというもの。電極にイオンが吸着した状態は、コンデンサーが充電されているのと同じ状態であり、このエネルギーを再度利用することで低いエネルギー消費を実現している。ただ、今のところCDIでは電極に引き寄せられるイオンしか処理できないため、他の方式に比べて処理できる海水が少ないのが難点だ。現在、各国の研究機関でCDIの電極に適した材料の開発が進められている。
ペンシルベニア州立大学Christopher Gorski准教授らの研究チームは、CDIを改良したバッテリー電極脱イオン(BDI)という方法を開発した。BDIでは電極間に膜を張って2つの流路に分離、脱塩水と濃縮水を同時に作ることによって、2つのサイクルを繰り返すCDIよりもエネルギー消費を減らすことが可能になった。
現在のBDIは塩分濃度の高い海水の処理には向かないが、比較的塩分の少ない地下水などの処理に適しているという。研究チームでは、BDIを用いたシステムのスケールアップに取り組み、プラントでの実用化を目指している。

(文/山路達也)

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