No.015 特集:5Gで変わる私たちのくらし
連載01 オーガニックな電子機器が変える未来の生活
Series Report

低温焼成・室温乾燥で導電性を発現

ところが近年、150℃以下、中には室温で導電性を発現する材料が次々と登場してきた。現時点では、焼成温度が低いほど導電性は劣る傾向にあるが、それでもアクリル樹脂や布などへの回路パターンの印刷が可能になったのは大きな進歩だ。

例えば、C-INK(旧社名コロイダル・インク)は、銀粒子を有機溶媒中に分散させるための有機分子に導電性分子を利用し、低い焼成温度、または室温で導電性を得ることができる材料を開発した。これはインクジェットプリンタでの印刷が可能であり、120℃、1時間の焼成で体積抵抗率は25μΩcmである。ちなみに、バルクの銀の体積抵抗率は、20℃で1.59μΩcm。従来の導電性インクが、低温や室温の焼成では、低効率がバルク比で3ケタ以上高いのが当たり前だったことを考えると、1ケタ違いであり、かなり肉薄するレベルになったと言える。

また、東京大学と三菱製紙が設立したベンチャー企業、エレファンテック(旧社名AgIC)は、室温で硬化する導電性接着剤を開発した(図4)。これは、薄い配線パターンの上に半導体部品を接着するために開発された材料だが、インクジェットプリンタでの印刷にも活用できる。また、完全硬化した後も柔軟性を失わないため、繰り返しの曲げや衝撃にも強いという。

低分子系液晶性有機半導体材料「Ph-BTBT-10」の相変化
[図4] エレファンテックの一液性導電性接着剤「ノーソルダー」
出典:エレファンテックのニュースリリース

現在の多くの銀インクを使って印刷した配線パターンなどは、多少折り曲げても破損することはない。ただし、引っ張ったり、伸ばしたりはできない。これは、銀粒子を焼成させて融合しているために生じる欠点だが、この点を解決した技術も登場してきている。例えばセメダインが開発したのは、銀粒子を鱗片状にして、焼成させずに、銀粒子同士を接触させた状態で使うことができる銀インクだ。これによって、伸張させても接触は途切れず、30%弱引き延ばすことができるという。また、東京大学では、インク中にフッ素系の界面活性剤を添加することで、215%まで伸ばしても断線しない銀インク技術を開発した。

線幅が異なる回路を一括印刷

大規模な装置を使わなくても素子形成できる有機エレクトロニクス向けの印刷技術が、多くの大学や研究機関、企業などで盛んに開発されている。今では、導体の回路幅が10μm以下の極細線の印刷も可能になった。印刷技術にRTR(Roll to Roll)の生産方式を組み合わせれば、さらに低コストの生産にも道が開く。

印刷というのは、古くから技術開発が進んだ分野であり、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷といった、それぞれ特徴的な成熟した印刷技術がある(図5)。なかでも有機エレクトロニクスの回路形成には、スクリーン印刷(孔版)やグラビア印刷(凹版)を応用した例が多い。最近では特に精密な電子デバイスの製造手段として、複雑で微細な回路形成が可能なグラビアオフセット印刷*3を利用する例が増えてきている。

各印刷技術の特徴
[図5] 各印刷技術の特徴
出典:Sigma-Aldrich社の資料をもとに加筆作成

ただし、グラビアオフセット印刷で線幅の異なる回路を一括形成する場合、転写不良による回路の断線や不均一な膜厚が形成されてしまう可能性がある。そのため、同じ線幅の回路ごとに複数の印刷版を用意して、複数回に分けて印刷を行う必要があり、量産を阻害する要因になっていた。ところが、SCREENホールディングスは、グラビアオフセット印刷をベースにして、様々な線幅が混在する複雑な電子回路を一括形成できる製版技術を開発したのだ(図6)。電子回路の製版データを作成する時に、インクの材質や粘度、印圧情報を考慮して、回路の線幅に応じてパターン凹部の深さを変えた印刷版を製作する。これによって、回路の一括形成時における線切れや膜厚の不均一性などの転写不良を解消している。

線幅の異なる回路を一括印刷できるグラビアオフセット印刷用の版
[図6] 線幅の異なる回路を一括印刷できるグラビアオフセット印刷用の版
出典:SCREENホールディングスのニュースリリース

[ 脚注 ]

*3
グラビアオフセット印刷: グラビア版(凹版)に供給されたインクを、版に接触した円筒状のゴムロール(=ブランケット)にいったん移してから、印刷したい媒体に転写する印刷方式である。インクがブランケットに受理された際に流動性の低い状態(半固体)になるため、微細な線をシャープに印刷できる。

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