No.002 人と技術はどうつながるのか?
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原理

さて、このVisualHapticsの議論をする前に、そもそもカーソルという存在が特別であることに気づく。先にコンピュータにおいて手となっているカーソルと述べたが、実際確かにGUI(グラフィック・ユーザーインターフェイス)上のあらゆる操作をカーソルで行っているわけだが、なぜ画面の中のカーソルはそれが「自分が」動かしているものと認識できるのだろうか。「自分が動かしているもの」がカーソルと言って終わらせるのは簡単だ。しかし、そもそも「自分が」ということはどういうことなのか?

こういった疑問に対して、ギブソンの生態心理学から出発した哲学者の河野哲也氏は、次のように考察している。「なぜ視覚風景は「私が」見ているように感じるのか?」という「自己帰属感」は、自分が動かした結果として発生するわけではなく、身体の動きに連動し視覚風景が連動変化することが、自己帰属感の発生原因であると指摘している。

つまり、カーソルが面白く特別なのは、動きが連動することによる自己帰属感の発生であると考えられる。もしカーソルが手元のマウスの「動かし」と無関係であれば、自己へは帰属されず、それはカーソルではない。さらに、重要なことは自分の動かしと連動するということは、透明性を得るということである。

よく考えてみて欲しい。パソコンでのほとんどの操作はマウスカーソルで行っている。しかし、私たちはカーソルを常に意識したりカーソルについて考えたりすることはない。我々の意識にのぼってくるのは、ほとんどすべてカーソルが指す対象の方である。

また道具の使用と透明性については、ハイデガーのブレイクダウンの話にもつながる。アメリカのHCI(ヒューマン・コンピュータ・インターフェイス)研究者テリー・ウィノグラードはハイデッガーを引用しながら、『普段は文字を入力しているときに、パソコンのキーボード自体を意識することはないが(道具的存在)、なんらかの処理の問題で、入力した文字がすぐに表示されないと、キーボードのキーが「引っかかる」という属性をもって現れてくる(ブレイクダウン)事物的存在になる』と述べた(『コンピュータと認知を理解する』,1989)。

つまり道具に何か問題が発生すると、その道具が意識に上り、それ自体を対象として扱う(事物的存在になる)。しかし、道具に問題が起きなければ、それ自体は透明性があり、たとえばキーボードでは「文章を書く」ということに集中できる(道具的存在になる)。

さて、VisualHapticsに戻ろう。VisualHapticsでは、動きの連動に少しだけノイズ(位置のずらし、時間遅延)を適用したことによってある感触を発生させた。これについて、まず自己帰属感という観点から考えてみよう。自己帰属感は「動かし」が連動するから発生する。カーソルは、自分が動かし、それに連動した結果である。通常のカーソルを100%の連動とし、自己帰属率が100%としよう。一方VisualHapticsは、それにノイズを発生させ、連動を乱す。だから連動が低下し、結果、自己帰属率がたとえば80%となる。つまり「感触」の発生は、自己帰属率の低下によって生み出される、と考えられるのではないだろうか。「環境側に帰属率を持って行かれることが、環境の感触を生み出す」というように考えれば、自己帰属率(すなわち環境側への帰属との配分)が、インタラクションデザインの気持ちよさ・わるさ、感触の設計、人間にとって質感の設計となるだろう。たとえば、パソコンやネットワークが遅いことを「重い」と表現してしまうことも自己帰属率がシステム側に持っていかれるからと説明できる。

次に、ブレイクダウンの話と絡めて考えよう。VisualHapticsは、ノイズによって、透明だったカーソルを「半透明」「濁り」を与え道具的存在と事物的存在のぎりぎりの状態をつくったと言えないだろうか。半透明にすることが、あの触覚とも言えない感触を生み出しているのではないだろうか。身近な例を挙げれば、TVゲームがひとつの同じコントローラー(たとえば十時キーとボタン)を利用しているにもかかわらず、ゴルフ、カーレース、格闘など、さまざまなゲームのリアリティを、実感のあるように多様に表現できるのは、こういった自己帰属率や透明性・半透明性の利用と考えることができる。ファミコンでスーパーマリオブラザーズのマリオのジャンプが気持ちいいと言われることが多いのは、「実はマリオのジャンプはジャンプ中に左右に動ける」という新しい帰属であったり、「Bダッシュが気持ちいい」という感覚についても、自己帰属率が高まることから言えるようなものではないだろうか。

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