No.010 特集:2020年の通信・インフラ
連載04 次世代UI(ユーザーインターフェース)
Series Report

より人の操作に近いUXへ

UXには楽しさが込められている。例えば、ゲーム機Wiiの操作棒もゲームの種類によって野球のバットになったり、クルマのハンドルになったりする。これもUX。人間が手足を動かす動作に連携した操作を画面上で表現できる楽しさがUXにはあるのだ。

アップルの最新機のiPhone 6Sになると、ハプティクス(触覚)とタッチの両方を表す造語「タプティクス」呼ばれる機能が付くようになった。この機能は、入力が確定するとボタンがぶるぶると震え、人がコンピュータの反応を実感できるというものだ。マウスを押す時にカチッというクリック感があるが、それと似た体感をディスプレイ上のソフトキーボードで実現したものだ。タプティクスは、新しいエクスペリエンス(経験)を提供しており、アップルウォッチにもこの機能が搭載されている。

センサが実現のカギを握る

UXが導入されているのはスマホやタブレット、パソコンだけではない。工業用計器類の表示板のタッチパネルによる新たなエクスペリエンスも生まれている。工業用計器は従来、工場内や機械内の圧力や温度などを示すだけだったが、タッチパネル方式によって、画面のパネルをタッチするだけで、新たに知りたい情報を得られるようになっている。

タッチパネルやハプティクスを実現する技術はセンサである。人の直進的な動きを検知する加速度センサ、回転の動きを検出するジャイロセンサ、気圧や圧力を検知する圧力センサ、北極(N極)から南極(S極)までを覆う地磁気(地球は大きな磁石である)を検出する磁気センサ、画面上のタッチセンサなどがふんだんに使われている。スマホには、これらのセンサが搭載されており、私たちはその恩恵を利用している。拡大・縮小だけではなく、スマホの向きによって画面が90度回転するのは、スマホが縦向きになっているか横向きになっているかを、地球上の重力加速度の向きを検出することで、理解している。

グラフィックスで実際に近い映像・画像を作成

フランスを本社とする3次元CADベンダーのダッソーシステムズ社は、3Dエクスペリエンスという言葉を用いて、「エクスペリエンス時代のモノづくり」を訴求している。3D CADは自動車やロボットなどの機械を立体的に作図することで、その実物を仮想体験できる。しかも、画面上では3D CADで設計した機械を360度回転させることができるため、設計図を読めない人でも作りたい物体を実感できる仕組みだ。

このようなグラフィックス画像は、これまでゲームソフトのような仮想的な物語を制作するために使われることが多かったが、工業用でも3D CADによるグラフィックス画像は、設計やシミュレーション訓練などで使われるようになってきている。CAD(コンピュータを用いて設計することおよびツール)とシミュレーションを組み合わせることで、試作品の動作状態を体感できるのだ。

UIは何もモニターやディスプレイ画面だけではない。頭にヘッドマウントディスプレイを装着して、仮想的な動画やグラフィックスの世界VR(バーチャルリアリティ)を楽しむこともエクスペリエンスと言う。また、現実の写真や画像に別のグラフィックスや写真、動画を合成して、新しい世界を生み出すことをAR(仮想現実)と言うが、これを楽しむこともエクスペリエンスという。

AR(拡張現実)では実際の写真(二人の人形)を撮り込みアプリと連動することでまるで一つの部屋にいるような状況を作り出すの図
[図4] AR(拡張現実)では実際の写真(二人の人形)を撮り込みアプリと連動することでまるで一つの部屋にいるような状況を作り出す

ARではカメラがセンサとなり実物の映像を撮り込み、グラフィックスを作成して仮想的な世界をシミュレーションで生成する(図4)。これを実現するテクノロジーがイメージセンサとグラフィックス技術である。イメージセンサは、スマホやデジカメのカメラそのものであり、画像・映像を作り出す。グラフィックスは、コンピュータ画面上に作画し、色を塗り、それを3次元でモノとして見せる技術である。VRやARではこれらの技術が駆使されている。

次世代UIがコンテキストアウェアネス

アップルのiPhone登場で、ユーザーエクスペリエンス(UX)という言葉がより一層注目されてきた。そのUXの次にくる新しいエクスペリエンスとして今、モバイルで注目を集めている言葉が、冒頭でふれたコンテキストアウェアネスだ。

連載2回目は、このコンテキストアウェアネスについて詳細に紹介し、どのように使われているかを解説する。3回目は、コンテキストアウェアネスを活用したサービスや製品について紹介したい。

[ 参考資料 ]

*1
1. 津田建二「『コンピュータ革命はまだ始まっていない』、アラン・ケイ氏、未来を語る」(2001/12/04)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/OPINION/20011203/1/

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

http://newsandchips.com/

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