No.009 特集:日本の宇宙開発
連載04 自動運転が拓くモータリゼーション第2幕
Series Report

準天頂衛星で自車位置を数十cmの精度で特定

その他に、カーナビで利用される人工衛星の位置から自車位置を特定するためのGPS(Global Positioning System)、タイヤの回転数を計測して進んだ距離を計測する走行距離計(Distance Measuring Instrument:DMI)、クルマの挙動を検知する6軸慣性センサ(Inertial Measurement Unit:IMU)も搭載されている。DMIやIMUは、衛星の電波が届かないトンネルの中などでGPSの機能を補完する。このうちIMUは、加速度と角速度をそれぞれ3軸方向で検知するセンサである。車速や車両の向きが変わる時、DMIの計測精度の低下を補う。IMUとして、3軸地磁気を加えた9軸センサの利用を想定している自動車メーカーもある。

日本では、GPSの精度を高める技術の利用が検討されている。自車がどの車線を走っているのか判断するためには、10mから数十mという現状のGPSの精度では不十分。これを10cmから数十cmへと高精度化するため、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の準天頂衛生「みちびき」の利用が検討されている。準天頂衛星とは、特定の地域の上空、天頂付近に長時間とどまる軌道を回る人工衛星である。天頂付近さえ空いていれば位置を特定する電波を受信できるため、高層建築が多い都市部でも安定して利用できる。

カメラを駆使してセンサ構成を単純化

初期のGoogle Carには搭載されていなかったが、近年の自動運転システムの「情報収集」では、カメラで取り込む画像情報をフル利用する例が目立ってきた。画像情報には、レーダーで検知するのと同様の情報が含まれている。また、速度制限や工事中の看板など、カメラでなければ取り込めない情報もある。

しかも、イメージセンサの進歩によって、カメラの解像度、ダイナミックレンジ、情報の取り込み速度、夜間撮影機能などが著しく向上し、小型化と低コスト化も進んだ。このため、多種多様なセンサを併用するのではなく、なるべく情報の収集口を1種類に集約して、システム構成を単純化しようとする試みが進んでいる。カメラによる画像情報の利用は、「分析・認識」機能の高度化が前提になる。詳しくは後述する。

規格策定が進む路車間通信と車々間通信

道路インフラや周囲のクルマとの情報交換に使う無線通信は、利用する国や地域の電波行政の決まりに則った技術を利用する必要がある。既に、自動運転での利用を想定した無線技術の規格策定が、さまざまな国や地域で始まっている。いずれも、遅延が少なく、動くクルマで安定した送受信が可能で、天候に左右されにくい特徴を持った技術が選択されている。

日本では、高度道路交通システム(ITS)で利用されている5.8GHz帯を利用する「DSRC(Dedicated Short Range Communication)」と呼ばれる規格と、2011年に制度化された700MHz帯を使った規格がある(図4)。DSRCは、欧米では5.9GHz帯を利用し、Wi-Fi通信の一つの規格「IEEE802.11p」として標準化されている。その他、4G携帯通信のようなIT機器向けの無線技術を、目的を限定して転用する動きも出てきている。

の図
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[図4] 日本でのクルマをつなぐために利用される無線通信
出典:イラストはContinental社のニュースリリース

DSRCは、日本では主に道路インフラとの路車間通信として、高速道路の通行料金を徴収する電子料金収受システム(ETC)などに既に使われている。ただし、NEDOの事業で、5.8GHz帯の車々間通信に応用する技術開発も進められており、トラックの隊列走行に成功している。これはトラック同士が一定の距離を保ったまま互いにぶつからずに走行する技術である。クルマ同士で自分の位置を通信で連絡を取り合い確認しながら走行している。欧米では「WAVE」と呼ぶ規格で車々間通信への利用が想定されている。米国では、早ければ2017年から、新車への通信機の装備を義務付ける予定である。

700MHz帯の通信技術は、車々間通信に利用する日本固有の技術である。いわゆる「プラチナバンド」に当たるこの帯域は、電波が障害物を回り込み、ビル陰に隠れたクルマとも無線通信できる。交差点で左右の道路からの交通状態を無線通信で知らせてくれる。歩行者との間で交わす歩車間通信、災害時アドホックネットワークなどへの応用も想定されている。災害時アドホックネットワークとは、災害などで携帯電話などが通信不能状態に陥った時に、通信事業者以外のネットワークで迂回通信する非常用ネットワークのことだ。

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