No.008 特集:次世代マテリアル
Scientist Interview

新技術より旧技術+エクスペリエンス

──4~5年前、私は英国のPlastic Logic社を訪問しました。その時に、ちょうどアマゾンの電子ブック、「キンドル」が発売されたばかりで、Plastic Logic社は、2週間以内にプリンテッドエレクトロニクスで形成した電子ブックをリリースするとアナウンスしていました。しかし、延期に次ぐ延期で、結局未だに電子ブックを見ずに終わっています。

当時は、iPad発売の2週間前にPlastic Logicがリリースを発表し、iPadは約束通り発売されました。ここで全てが変わったのです。

オールプラスチックによる電子ブックはあまりにも難しかったといえます。新しい製造装置、新しいプロセス、そして新しい材料を導入しました。これらは極めて高価で、設備投資がかかる割に、性能が低く、歩留まりも悪かったのです。

これを見て私は、最初から紙とクリップで回路を作ろうと考えました。低コストで実現しようとしたら、従来の装置で、従来のプロセス技術で作るべきでしょう。だから既存の印刷機を用いて、電子回路を作ろうとしました。我々が使ったのは、産業界で毎日使われている印刷機です。それを求めて印刷機メーカーへ行きました。配線となる導電体は銀インクやカーボンインクを利用しています。送り出す速度は60m/分です。容量性タッチセンサの上下電極も導電性インクでパターンを描きます。X、Yのマトリクスを描くことでタッチセンサが出来ます。例えば、図1はマルチタッチが可能なX、Yマトリクスで抵抗も集積しています。

比較的大きな面積のタッチパネルスクリーンの配線回路図
[図1] 比較的大きな面積のタッチパネルスクリーンの配線回路

──基板は何ですか?

ごく一般的なプラスチック材料のPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂です。ここに2層の電極と配線を形成します。タッチセンサの容量として機能する誘電体は、紙です。絶縁膜をあえて作りません。印刷した後にラミネートして完成です。印刷には、ごく一般的なスクリーン印刷*3を使います。スクリーン印刷は配線や容量センサを形成するのに、ちょうど手ごろな技術です。透明電極にはメタルメッシュを印刷で形成します。

──応用製品を見せてください。

図2がDJ Qbertと名付けた音楽レコードアルバム製品です。昔のレコード盤と同じ大きさの厚紙にプリンテッドエレクトロニクスが入っています。青い紙の中心にある丸い部分はレコード盤を模したもので、DJがアナログレコードを手で押さえながら回転を変えたりする操作を実現しています。手で丸い部分を抑えると、音が変わります。また、周囲にあるボタンからも別の音が出ます。

タッチするといろいろな音の出る擬似レコードアルバムDJ Qbertの図
[図2] タッチするといろいろな音の出る擬似レコードアルバムDJ Qbert

消費者は、この青いレコードアルバムを見て、まるでマジックのように感じてくれます。昨年夏にリリースして1000枚出荷しました。このアルバムは、オールドファッションの製品なのに、魔法のような経験ができます。しかし、特別な新しいテクノロジーは何もありません。消費者は、テクノロジーについて知りたいと思いませんし、気にもしません。この中にシリコンチップが入っていることも一切気にしません。エンジニアだけが気にするでしょうが。消費者が、これが価値あると感じてくれさえすれば良いのです。

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