No.007 ”進化するモビリティ”
CROSS × TALK 都市とモビリティの未来

日本発の自動運転技術を開発するベンチャー企業「ZMP」の経営者で元エンジニアである谷口恒氏と、最先端の交通学者である東京大学生産技術研究所教授大口敬氏に、モビリティによって都市や地方はどう変わるか、自動運転普及へのマイルストーン、自動車産業の未来のビジョンなどについてお聞きしました。

(構成・文/大塚 実 写真/MOTOKO)

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2020年の東京、自動運転は実現するか

谷口 ── 2020年までに、自動運転はきっと実現できると思います。実はオリンピックが決まったその当日に、居ても立ってもいられなくなって、東京都にメールしたんです。自動運転をやりましょうと。ビジョンを描いたので持っていきますよと。残念ながら返事は来ませんでしたが。

大口 ── 自動運転について、私が問題だと感じているのは、技術先行的なところですね。どういう場に入れたいのかとか、どういう風に使わせたいのか、もっと議論が必要なのではと感じています。

谷口 ── 確かに技術ばかり報道されていますね。日本は「新しい製品が生まれない」とよく言われますが、これはマーケティングの視点が欠けているから。マーケティングの基本は「5W1H」。誰が使うのか(Who)、どこで使うのか(Where)、なぜ必要なのか(Why)、そこが抜けています。残念ながら注目されるのは「どうやって(How)」の部分だけです。

この「誰が」の部分ですが、これまで議論されていたのは概ね、「免許を持っているドライバー」を想定しています。でも、私が考えているのは、子供達、高齢者、障害者など「交通弱者」と呼ばれる方達。運転できないからこそ、自動運転が必要なのです。地方に行くと、過疎化が進んでいて、クルマ以外の移動手段が全く無い。これは非常に緊急性が高い問題だと感じています。

大口 ── 多分自動車メーカーは、どこも「運転支援」を中心に考えていて、運転者がいない形の「完全な自動運転」は、まだあまり意図していないでしょうね。でも社会ニーズとしては極めて大きいと思います。

谷口 ── そして「どこで」について、自動運転というとみんな想像するのは東京ですが、こんな人口が多く、建物が密集しているところで、2020年までに実現するのは結構難しい。やるとしたら、自動運転の専用レーンが必要になるでしょう。オリンピックをランドマークとして、例えば選手村と競技場の間を自動運転で結び、その技術を地方に持っていく方法はあるかもしれない。

大口 ── 私も同じようなことを考えていて、いま離島に注目しています。離島は自動運転を導入しやすい。小さい島なら速度を100kmも出す必要はない。全島でクルマが100台もないようなら、社会実験として全部取り替えてもいい。道路交通法が問題なら、特区のような制度を入れても良いですね。

まずシステムを導入してみれば、技術的に未熟なところがたくさん出てくる。どんどん利用してもらえば、どんどん実用的になる。そういうことを離島でやれたらいいと思っています。

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