No.007 ”進化するモビリティ”
Topics
テクノロジー

日本発の静かな超音速旅客機
−JAXAのD-SENDプロジェクト−

 

  • 2014.09.12
  • 文/大塚 実

音速以上の速度を出すことができる飛行機「超音速機」。ニューヨーク・パリ間をわずか3時間半で飛行することができた「コンコルド」はその名を知られているが、「ソニックブーム」と呼ばれる爆発音の問題を解決できず、2003年に世界から姿を消した。しかしいま、そのソニックブームの問題を解決し、この夢の乗り物を復活させようという実験がJAXAで行われている。宇宙開発のテクノロジーで知られるJAXAが取り組む最新航空技術の現場を追った。

コンコルドが残した夢

飛行機の歴史は高速化の歴史でもあった。ライト兄弟の「フライヤー」号が飛んでからまだ100年ちょっと。その間、飛行機はどんどん速く、どんどん大きくなっていった。

だが、そこには「音速」という大きな壁があった。音速は、文字通り音が空気中を伝わる速さだ。その速度は、秒速だと大体340m程度。音速を基準にした指標として「マッハ」があり、マッハ1なら音速と同じ、マッハ2なら音速の2倍ということになる。音速以上の速度を出すことができる飛行機は「超音速機」と呼ばれる。

当たり前であるが、飛行機が音速を超えると、飛行機は自身が発生した音よりも先に飛んでいくことになる。この時、機体の周辺で音速以上の速さで伝播する衝撃波(圧力の変動)が発生することが良く知られている。衝撃波の発生には大きなエネルギーが使われるため、非常に大きな空気抵抗が生まれる。

超音速旅客機としては英仏が共同開発した「コンコルド」が有名だ。コンコルドが就航したのは1976年のこと。マッハ2で飛行する能力があり、ニューヨーク・パリ間を通常の半分程度のわずか3時間半で結ぶことができた。

超音速旅客機「コンコルド」の写真
[写真] 超音速旅客機「コンコルド」。乗客定員は100人と少なかった

しかしコンコルドは2003年に退役。これにより、超音速旅客機は世界の空から姿を消した。2000年に起きた墜落事故がきっかけではあったが、問題となったのは、燃費の悪さや乗客定員の少なさによる高コスト。そして衝撃波が地上に届いたときに聞こえる「ソニックブーム」という大きな爆発音による騒音だ。

こうした課題を解決できずに、コンコルドは商業的に成功することはできなかったものの、超音速旅客機には「移動時間の短縮」という代え難い大きなメリットがあるため、次世代機の技術開発は欧米で積極的に進められている。そして日本で現在進行中なのが、本記事で紹介する「低ソニックブーム設計概念実証」(D-SEND)プロジェクトである。

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.