No.007 ”進化するモビリティ”
Scientist Interview

感じるモビリティ・デザイン
ゆっくりした移動が街を変える

2014.10.14

磯村 歩 (株式会社グラディエ代表取締役、モビリティデザイナー)

高齢化社会へのシフトとともに、次世代の交通手段として脚光を浴びつつあるのがパーソナルモビリティ。小規模なメーカーにも参入の道が開かれており、3Dプリンターなどを活用した新しいものづくりが花開く可能性を秘めている。
しかし、普及までには乗り越えなければならない壁が無数にあるのも事実。今後の目標と課題について、モビリティデザイナーの磯村 歩氏に聞いた。

(インタビュー・文/神吉 弘邦 写真/AXHUM)

パーソナルモビリティが伸びている背景

──普段はどんな事業をされていますか。

パーソナルモビリティの普及に向けて何が必要なのかを考えたとき、つくり手と使い手をつなぐ「真ん中の存在」が求められていると感じています。

そもそも新しい分野でもあり「どんな製品があるのか?」「どのような活用方法が有効なのか?」が使い手が知らない現状です。
例えば、買い物難民向けにパーソナルモビリティの活用を考えたとき、ハンドル型電動車いす、三輪の電動アシスト付自転車、5人乗りの電気自動車、自動車を相乗りするマッチングサービス、移動販売車など様々な手段があります。その中で、何が最適かを、使い手の視点でコーディネートしないといけない。

そして、使い手側も、どのように活用できるのかを一歩踏み込んで考える必要があります。例えば、人口縮小に伴いバス等の公共交通が減少するなか、免許を返納した高齢者の移動は大きな課題です。そこで、岡山県赤磐市にむけて、住民を対象としたクルマに代わる新しい移動を考えるワークショップの企画と運営を行いました。いろいろなメーカーに声をかけてパーソナルモビリティの試乗会も同時開催し、その可能性について住民の皆さんと対話を持ちました。

このように、使い手に近いところにいると、ニーズを肌感覚で得られる。それらを踏まえて、今度は作り手に対し、パーソナルモビリティのデザインや企画の提案もしています。

──自治体の街づくり計画に組み込まれるなど、にわかにパーソナルモビリティへの関心は高まりましたね。

その背景には、切実な社会課題があるからでしょう。クルマに依存していた高齢者が免許を返納すると、とたんに移動手段が失われる。バス等の公共交通も減少していますからね。すると家に閉じこもりがちになって廃用症候群(過度の安静が引き起こす、心身のさまざまな機能低下状態)を引きおこし、社会保障を圧迫する。

都市部の場合は環境問題です。クルマ自体のイノベーションが進んでも、今の使われ方は果たして地球環境にとって良いのだろうかと思います。国交省の調べでは、クルマに乗っている人数の平均は1人か2人、移動範囲もほとんどが10キロ圏内とされています。

国交省はこうした事実を背景に、超小型で1人もしくは2人乗り、高速道路には乗れないけれど時速50キロは出て近距離移動にピッタリな電動モビリティに認証制度(http://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_fr1_000043.html)を進めています。

クルマのあり方はどうなのか、これから問われる時代になります。防災の観点から言うと、例えば東日本震災では関東圏が大渋滞しています。普段は稼動していない8割のクルマが外に出た途端、道路は渋滞になってしまいました。

──今後、人口が縮小するとクルマの台数も減っていきますよね。

大きなトレンドから見ると、まさにそうです。3車線から4車線あった車道が不要になっていき、歩行空間が生まれてくる。そのとき、高齢化社会にともない歩行補助的なツールが必要になるでしょう。

パーソナルモビリティは、産業構造の変化という観点からも注目されつつあります。例えば、内燃機関の自動車が電気になってくると、垂直統合産業から水平分業産業に変化してきます。電気自動車は基本構造がシンプルで、バッテリー、コントローラー、車輪などを組み立てれば成立し、小さなベンチャーでも参入しうる産業だからです。

くしくも3Dプリンターなどの登場で、ものづくりが民主化してきていますから、その大きな流れにもシンクロしています。米国のベンチャー「ローカルモーターズ」では、3Dプリンターを使ってイベント期間中(48時間)にパーソナルモビリティを作ってみせました。

すでにWHILL(http://whill.us/jp)やテラモーターズ(http://www.terra-motors.com/jp)などのベンチャーがパーソナルモビリティ(電動車いす、電動バイク)に参入しています。それほど名の知られていない企業、自動車産業で言うとティア2、ティア3程度の中小企業も、パーソナルモビリティに触手を伸ばし始めています。

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