No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

連載01

半導体チップの再生可能エネルギーへの応用

Series Report

インバータの役割は交流100V、50Hz/60Hzに変換

どのような半導体がインバータに使われているかを知るためには、その役割と構造を知る必要がある。例えばソーラーパネルからの電力を100Vの交流電力に変換する場合を考えよう。

ソーラーパネルでは、[図1]で紹介したように半導体のpn接合のセル1個から発生する電圧は、標準的なシリコン単結晶の場合0.7~0.8Vしかないので、直列に多数並べて昇圧する。仮に100個のセルを直列につなぐと出力電圧は70~80Vになる。ソーラーパネルは通常は数十個のセルが並んでおり、1枚のパネルから50V程度の出力電圧を取り出すことができる。屋根が広ければ、このパネルを多数並べ、出力電圧を高めて発電電力を大きくすることが可能だ。

[図2]のように、ソーラーパネルで数百Vになった直流電圧からインバータを使って交流に変えるのだが、ここではまだ実効交流電圧100Vにはしない。絶縁トランスを使って100Vに変えるが、実は発生した電力を電力会社へ送るため、100Vではなく107Vにしておく。電流は電圧の低い方へ流れやすくなるからだ。普通は電力会社から一般家庭に流れていくが、これはその逆のプロセスなので逆潮流と呼ばれる。さらに外の商用の電力線(連系)に必要な制御や保護を行う回路を経て、電力品質を高めてから外部へ電力を送り出す。

[図2] ソーラーで発電した直流電力を交流電力に変換するパワーコンディショナーの基本構成
出典:太陽光発電のパワーコンディショナーの原理と仕組みhttp://hatsudenkakaku.info/entry60.html
ソーラーで発電した直流電力を交流電力に変換するパワーコンディショナーの基本構成

このような制御回路やインバータに半導体が多数使われる。インバータは、スイッチングパワートランジスタを使って、交流へと変換する。この変換では、負荷のコイルに流す電流の向きによってプラスとマイナスの交流電流を作り出す。例えば、[図2]の(b)では、4個のトランジスタの内、G1とG4をオンにすると、右端にある絶縁トランスの1次コイルに流れる電流は図の下から上へと向かい、今度はG1とG4をオフにしてG2とG3をオンにすると、コイルに流れる電流は上から下へと向かう。つまり交流動作をする。

これは動作を単純にした例だが、入力の電圧をパルス幅変調(PWM)によって、サインカーブをギザギザ波形で作り出すことができる。PWMはパルスの幅が広いと高電圧、狭いと低電圧に対応できるため、サイン波形は0からピーク値までギザギザになるのだ。このギザギザ波形は、後ほどフィルタをかけることでスムーズなサインカーブに直すことができる。

このような電子回路では、G1〜G4のスイッチング素子がパワートランジスタで、パワートランジスタのゲートにオン・オフの信号を送り出すための制御回路や、PWMのパルスを発生・制御する回路にも半導体が使われる。パルスの幅を少しずつ広げてゆき、最大の幅になると今度は狭めていくといった制御にマイコンやアナログICなどが必要で、出力される電圧をフィードバックするのにコンパレータ(比較器)やアンプ、フィルタなどが必要になる。また、出力電圧波形が実効値107V、周波数が50Hz/60Hzになるように制御するための回路も必要になる。

風力・水力でもいったん直流に変換

風力発電や水力発電は、外的な力によってモータ(発電機)を回すため、最初から交流であるが、発電する電圧は600V~690V程度と高く、100Vではない。また、風の強さによって回転数が変わると電圧も周波数も変わるため、出力を一定の107Vの50Hz/60Hzに変換する必要がある。しかも、周波数の大きなずれは許されない。東京電力によると(参考資料1)、50Hzの周波数に対して0.2Hz(0.4%)のズレがあると、顧客から問い合わせがあるという。また、周波数変動が数%になると、発電機を停止せざるを得なくなるとしている。

風力・水力発電では、風車・水車の回転によって生じた電力を周波数50Hz/60Hzに変換するため、いったん直流に変換する。発電機側の周波数がある程度変動しても、直流に直しておけば50Hz/60Hzへの変換制御は比較的簡単だからである。東日本の50Hzと西日本の60Hzを変換する周波数変換所は、佐久間周波数変換所(電源開発)、新信濃変電所(東京電力)、東清水変電所(中部電力)の3か所あるが、これらの変電所では60Hzを直流に変換してから50Hzの交流に変換、あるいはその逆を行っている。

風力・水力発電では、交流から直流に変換し、さらに107V、50Hz/60Hzの交流に変換し、トランスを使って昇圧してから系統連系に送り出す。直流から交流に変換するところは、太陽光発電と同様である。

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